第55話 ラスボス戦が何かがおかしい・3
こちらが剣をふるってダメージを与えても、コニャックはその都度立ち上がっては詠唱を途切れることなく行い、攻撃してくる。
しぶとい、本当にしぶとい。そして、今のターンはやたらと詠唱が長い。こういう時は強い魔法というのがゲームのお約束。あー、チャット機能かボイス機能あれば情報もらえるのに。それに助太刀を頼みたいのに、ウィンドウのどこにもそれらしきコマンドは無い。
いくらテストプレイでも雑過ぎる。
「ダークバレット!」
闇が弾丸のようになって襲ってきた。最初よりも衝撃波もダメージも強い。さすがにウィンドウ開かなくても体力が削られたのはわかる。
「クッ! 二人共大丈夫か!」
「ユウさん、僕はこの袈裟のおかげで大丈夫! いざとなったら般若心経唱えるから!」
さすがにラスボスで仏教は通用しないのではないか? 普通に光属性の攻撃魔法を使って欲しい。西洋の魔法が似合わない袈裟に錫杖だけど。
「僕も! 風属性の素早さで避けられるし、ガンガン盗むよ」
いや、ラスボスだからアイテム貰っても意味ないのでは。それよりシーフらしく敵をかく乱なり、風属性魔法を使って欲しいな。
まあいい、二人共ダメージは最小限に抑えたようだ。しかし、さっきの技は無属性の私ですら、かなりダメージが大きかった。本来ならもっとダメージが大きいはずだ。運営が手加減しているのか、実は何かに守られているのか? いや、あれだ。ゲームだし「主人公補正」というやつだ。それか実は装備のどれかがSSRなのだろう。
とりあえず打撃系だ。私は剣を使って斬りかかる。よし、毒状態になった。少しは有利になるはず……。
「これはこれは随分と甘い毒ですねぇ」
コニャックが不敵に笑う。しまった、効きが悪かったか。
「私は毒に耐性があるのです。幼いころからありとあらゆる毒を父から教えられ、時には叩き込まれた。厳しかったが、今はいい思い出です」
毒味役のスパルタ教育とうやつか。しかし、毒に耐性があるとはヒュドラの剣の強みが活かせないのではないか。
私が焦ったその時、予想外のセリフを聞くことになる。
「ふむ、毒性中程度、甘さは十点満点中の七、苦味は四くらい。痺れはちょっとあるのがまた良い。これはヒュドラの一の頭の毒の味だな」
……いや、ワインのソムリエじゃないんだからさあ。
『コニャック様は毒に耐性を得たはいいが、ハマりすぎて毒ソムリエになってな。ああして確かめて美味しい毒を探しているのだ』
毒ソムリエってなんだ。私には単なる美味しい毒好きの変態にしか見えない。
リョウタはもちろんのこと、ティモまで引いていることからこの世界でも毒ソムリエは変態ということがわかる。
私達の冷ややかな視線に気づいたコニャックは慌てて体勢を直してきた。
「い、いや、毒の分析だ、決してテイスティングしていた訳では無い」
絶対に嘘だと思うが、気にしてはいられない。私は再び剣を振るった。また毒効果が出た感覚が剣を通してわかった。
「うむ、今度の毒はヒュドラの毒でも、少し辛味もあるタイプだ。香りも良いな。これは七の頭の毒だ」
またも毒ソムリエのうんちくを垂れてきた。ヒュドラの毒にも違いがあるのか? いや、頭がいくつもあるからそれぞれの毒に違いはあるかもしれないけど。
「ち、違うぞ。あ、あくまでも毒の分析だ」
私の冷めた目に気づいコニャックは慌てたように取り繕うが、なんかこう真剣さが足りないというかグダグダになりそうだ。よし、シリアスな質問をしてみるか。
「魔族達が引き寄せられたのもお前のせいか」
「ああ、解放呪文の影響だ。キルシュヴァッサー様を少しでも慕っていた者にも手伝ってもらおうとしてな」
私はコニャックの攻撃を交わしながら聞き返す。さっきのダークバレットは少し見切ったがやはりダメージは受けてしまう。
「その魔族達はどこにいる」
「多分、私の呪文による呪いのためか、ほとんどがたどり着く前に倒れている」
「なっ……。ではあちこちにある白骨は冒険者だけではなく魔族もいるのか!」
「強い呪文には付き物だ」
「ふざけるな、あれは火山性ガスであって……いや、どちらにしてもお前のせいか。もう一つ聞く。キルシュヴァッサー討伐軍はどこに消えた?」
「知らんな、そんなものは。『ダークサンダー』!」
黒い雷が落ちてきた。普通の雷とは違って焦げはしないが、とにかく衝撃波が強い。
『ダークワインダー』
巨大な黒い矢が現れ、私に向かってくる。魔法攻撃は剣では弾けない。くらうしかないか。
そう思って身構えたが、衝撃も痛みも来なかった。と思っていたらリョウタが錫杖で跳ね返していた。あれ、魔法を弾けるのか。
「ふう、とっさにやってみたけど弾き返せるものだね。僕が光属性のためかな」
「リョウタ、無茶するな。回復や補助でいい」
「いやいや、ユウさんばかりいいところを取られたくないよ。おっ! またダークサンダーだ。よし!」
リョウタは素早く錫杖を掲げた。黒い雷が錫杖に当たり、散っていく。
「やっぱり前の持ち主が徳が高かったのだね、錫杖自体いいものだけど」
「うぬ、変な格好だと思いましたがやりますね」
「変なは余計だ」
「失礼。では、『妙な格好をしたデブな魔法使い』」
あっ、私以外がリョウタにデブと言うとまずい。
「敵にまで、デブ扱いされた……」
あちゃー、リョウタが落ち込んでしまった。恐らくしばらくはこのままだ。ティモと私でなんとかせねばならない。
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