第24話 ゲームと思って恐怖心なんてないから出来る技(よい子は真似しちゃいけません)

 木を植え戻して合流した私達は再び森の中を歩き始めた。一儲けしようと思ったが確かに次の宿場町まで枯らさない処置は必要だし、盆栽のことだとはリョウタに指摘されるまで気づかなかった。庭に植える木だと早合点してまた少しばかり欲張ってしまったようだ。早くクリアしないと懲戒免職だし、寄り道はあまりしない方がいい。


「モンスター以外だと熊が出るかな? 一応錫杖から音が鳴るし熊除け鈴の代わりになるか」


 リョウタがシャラシャラと錫杖を鳴らす。確か熊の種類によっては音を鳴らすのは意味が無いと近年の研究結果だったような気がするが、無粋だと思うので黙っておこう。この地域の熊の種類も分からないしな。


「ティモ、森だと何が出やすい?」


 ここはプレー歴が長い先輩に尋ねるべし。いろいろ知っているだろう。


「野生動物なら狼に狐、モンスターならゴブリンにオークが多いね。あとキノコ系が多くてマイコニドをよく見かける」


 ふむ、マイコニドは毒胞子を出すモンスターだったかな。


「マイコニドは毒キノコだったな。食べるのは止めとくか」


「ユウさん、だからモンスターを試食しようとするのは止めて。それに玄人でも毒キノコと食用キノコの見分けは難しいらしいよ」


「さすがに人型モンスターの試食は避けたいなあ。同類を食べるようで受け付けないし、活け造りは魚系よりも気味が悪い」


「人の話を聞いてないね。って、ユウさんはサハギンを試食しようとしてなかった?」


「そんな昔のことは忘れた」


「……あのさ、普通に買った携帯食を食べようよ。さっき採ったヤマモモだってあるからさ」


 ティモが現実的な提案をしてきた。


「そうだよ。ティモ君の言う通りだよ。それに野生動物の生食は寄生虫などで危険なのに、モンスターの生食なんてもっとリスキーだよ。そんな狩りをするより倒して金貨稼いだ方が街でいい物が食べられるよ」


 私の高尚な食の趣味をけちょんけちょんに貶されたが、リョウタの言うことにも一理ある。ここは素直に言うことを聞こう。


「わかった、じゃこのまま……むっ!」


 言った途端にガサっと茂みから何かが出てきてエンカウントされてしまった。さっさと進みたいのに邪魔されるのはRPGあるあるだ。面倒だな、一体何が現れた?


「熊だ……。錫杖の音はダメだったか」


 リョウタがガッカリしているが、私はワクワクしていた。熊ならばモンスターではないから倒しても消滅しない。肉や毛皮を売り飛ばせる。


「よーし! 熊なら任せろ! 高く売り飛ばせる!」


 私は剣を構えた。二人は私に警告してくる。


「ユウさん、熊は素早いから危ない!」


「そうだよ、熊は素早いから盗むスキル使っても失敗が多いし、素早く逃げても失敗する。振り向かずにゆっくり後ずさりして……」


 熊は口を開けて威嚇してきた。その口を目掛けて剣を投げる。狙い通りに喉の奥をミスリル剣が貫通し、熊はあっという間に絶命して倒れた。


「え? 即死? 何が起きたの?」


「普通、熊は一撃で倒せるものじゃないよ」


 二人はポカンとして私を見つめる。


「簡単な話だ。人が拳銃自殺する時、よく漫画やドラマなどではこめかみを撃ち抜くがあれは間違いだ。確実に死ぬには口を開けて斜め上を撃ち抜く。簡単に言うと喉の奥の脳みそが急所だから、口を開けて威嚇した瞬間に剣をそうやって刺さるように投げただけだ」


 そう、Wikipediaで熊に関する事件を読んだり、ミリタリー系漫画を読んだ雑学を実践したまでだ。

 実戦は初めてだが、レベルアップしているから力やコントロールが良くなっているのだろう。


「ユウさん、剣をまた投げたと言いたいけど、今回は助かったから感謝するよ」


「ユウさんすげー! 熊を一撃で倒すなんて初めて見た!」


 ふふん、二人とも私の凄さがわかったようだ。


「でも、ユウさん。サハギン以外は僕達は普通に戦ってないね」


「倒したから問題ない」


「お、おう。でも、僕達もレベルアップしないとならないからもうちょっと僕達にも仕事させてね」


 この後、適当に熊を捌こうとして二人から悲鳴が上がり止められたので、売れそうな胆嚢と手だけを切り取って持っていくとした。まあ、確かに血のしたたる生皮なんて臭いし、干す時間も無い。熊の手や胆嚢はこちらでも高級食材や薬だといいのだけど。


「ユウさん、また金儲けのことを考えている」


 リョウタはこういう時は鋭い。


「経験値だけだとなんかもったいなくてな。無課金勢だから何とかして稼ぎたいじゃないか」


「お、おう」


 リョウタは引きつっているが、こちらは無課金なりのプレーを真剣に考えているのだ。その辺について彼は危機感が足りない。

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