第23話 ユウは強いが、常識というか何かがおかしい
そうして平坦な草原を歩き続け、太陽がかなり昇った頃だから多分、正午くらいの時間にサ・イボーンの森に辿り着いた。地図によればこのまま森を抜けないと次の町に辿り着けないらしい。
「いろいろな木が生えてるね。僕達の国でも見かける木もある。これは桜っぽいから春になったらきれいな花が咲くのかな?」
詳しくはわからないけど、桜そっくりの木を見つけた。葉っぱといい、幹といい葉桜そのものだ。
「うん、ラッカスと言ってきれいな花が咲くよ。実はまだ青いけど熟すると美味しいよ」
「へえ、クヌギや椎もある。多様だな」
ユウさんも久々の森林浴に嬉しそうな顔をして森を見渡す。こういうところに小屋を建ててスローライフするのもいいなあ。
「うん、それに小さな木できれいな物は観賞用になる。けど、この森にもモンスターが出るから園芸屋に頼まれた冒険者が採取することがあるよ」
キラリとユウさんの目が光った。マズイ、また金儲けスイッチが入ったようだ。
「ちょっと売れそうなものを見繕ってくる」
「あっ! ユウさん! 単独行動はダメ!」
僕が止めるのも空しくユウさんはどこかへ行ってしまった。
「しょうがない。僕たちは休憩兼ねてここで待機しよう」
僕は適当な岩に腰掛けた。下手に探すとすれ違ってはぐれてしまう。こういう時は片方が動かないのは鉄則だ。
「じゃ、僕はリョウタさんの目の届く範囲で食べられる木の実でも探してくる」
ティモ君はピョコンと跳ねるように飛び出し、周辺の木々を見渡し始めた。子どもって元気だなあ。
「ヤマモモがなってるね。すぐに食べるのならこれがいい。よーし!」
そう言って木登りを始めた。うちの世界にも生えているあれだ。僕が独身時代に住んでいた街では何故が街路樹になっていて実が成る時期になると道路がグチャグチャになって大変だった。本当は食べたかったけど、人目あるから採取することできなくてもったいないと思ったものだ。なんであんなところにヤマモモを植えたのかなあ。今もあの道路に植えてあるのかな。
なんて思い出にふけっているとユウさんの声が聞こえてきた。
「おーい! 良さそうな木を見つけてきたぞ。ちょっと大きいけど枝振りもいいし、売れそうだ」
ちょっと? ユウさんが脇に抱えたそれは長さは二十メートル、幹の太さは三十センチはありそうな杉だった。レベルアップした剣士とはいえ、木を引っこ抜くほどの怪力になってたのか。って、またベタベタな怪力ぶりを発揮している。
「ユウさん、旅の邪魔になるよ。枯れないように処置しなきゃならないし、そんなグッズの持ち合わせはない。それ以前にちょっとどころじゃないデカさだよっ! ティモ君の言ってた観賞用ってきっと盆栽のことだよ。なんでそんな巨木なのさっ!」
「なーんだ。じゃ、戻してくる」
ユウさんは大木を抱えたままクルっと真後ろに振り向いて歩き出した。
僕は見逃さなかった。真横からユウさんを襲撃しようとしてたオーク三人が振り回した杉の木の直撃をくらって吹っ飛ばされる瞬間を。
「ティモ君が離れた所の木登りで採取することに夢中、僕は腰掛けて低い位置だったから、振り回した木の直撃を免れた訳か。た、助かった」
オーク達の方向を見ると泡を吹いて気絶している。きっと、彼女は植え戻すまでに似たようなことを繰り返してモンスターをなぎ倒すのだろう。
少し哀れに思うが、このオーク達は無双状態とはいえユウさんを襲おうとしたのは許さない。さっきの直撃で気絶して相当ダメージを受けているから、僕は初めて打撃攻撃をしてトドメを差し、少しばかりの経験値と金貨を手に入れた。
「来世はもっとマシな生き方をしなさい、名無名無」
とりあえずお坊さんの格好らしく、成仏を願っておいた。モンスターで宗教なんてないかもしれないが、僕たちの世界だって死んだ動物にも供養する。モンスターにもきっと魂はあると思う。
この恰好の影響かな、異世界なのに仏教的な考えに染まってきた。
「ただいまー! ヤマモモ豊作だよ! あれ? リョウタさんモンスターやっつけたの?」
ティモ君がヤマモモを袋いっぱいに入れて戻ってきた。とりあえず事の一部始終を見なかったのは幸いだ。またユウさんの無自覚無双見たら怯えさせるかもしれない。
「ああ、ゴブリン一匹だったから僕だけで倒せた」
「ごめん、リョウタさんを一人にしちゃったね」
「いいさ、ゴブリンくらいなら僕も倒せる。それに聞こえたと思うけどユウさんは木を戻したらすぐに戻ってくるから」
「そうだね、戻ってきたらこのヤマモモ分け合って食べようね!」
ティモ君は笑顔で答えた。やはりシーフとはいえ、この純真な子どもをあのユウさんと一緒に旅させるのはどうなのかと改めて僕は悩むのであった。グラジオラス様もひっかかることを言っていたし。
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