第31話 差別問題は万国(世界)共通
夕飯まで少し時間はあるし、三人で街の散策へ出ることにした。土系の魔法グッズも豊富だというし、市の前日の雰囲気など面白そうだ。
とはいえ、体感的には午後四時くらい。飲み屋と思われる店が早くも開いていたり、雑貨屋や野菜などの市は早くも閉まっているから早くも夜の歓楽街のような雰囲気だ。
「買うことはないだろうけど、植物市の場所でも下見しようよ。外から眺めるだけでも何があるかわかるし、変わった薬草など売ってるかもしれないし」
リョウタが提案してきたので、そのまま行くことにした。確かに何が売られているのか外側からわかるかもしれない。
街の中央広場にて開催されるということだったので、場所は分かりやすくて楽にたどり着くことができた。
「日本の盆栽市そのものだな。鉢はこちらのデザインだし、見た事ない植物もある」
「ティモ君、あそこにあるニンジンみたいな植物ってもしかしたら……?」
リョウタが恐る恐る指を指す所には木とは思えない観葉植物みたいな草があった。しかし、鉢がいやに大きい。
「ああ、あれはマンドラゴラ」
「ひええっ! あれが噂の叫ぶ草!」
叫ぶ草? 私がキョトンとしているとティモが解説してきた。
「ユウさんは外国の人だから知らないか。 根っこが人の形で引っこ抜くとすごい悲鳴あげるの。で、聞いたら死んじゃうから無音魔法かけるか耳栓しないと。でも根っこからいい薬ができるとか、金貨を産んでくれるとか言われるから人気あるよ」
「金貨?」
それはいいことを聞いた。明日買おうかと思っていたら、リョウタに牽制された。
「ユウさん、育てるより魔物倒した方が稼げるからね。荷物になるし」
チッ、なんで考えていることがバレるのだろう。そんなに顔に出るのだろうか。
「ち、違うぞ。あ、あの宝石細工の木を見てたのだ」
適当に指を指したのは中心部に飾られている宝石や貴石、金細工を施した観葉植物だった。多分だが幹や枝は金、葉は翡翠、黄色い実はトパーズ、赤い花はルビーだろう。周りには警備の人が何人もいるから値打ち物らしい。
「お嬢さん、綺麗だろう? だが、あれは非売品なんだ。町の美術家が町に頼まれて制作してくれたものなんだ。普段は役場に置いてあるが市や祭の時は広場に飾るのさ」
いくらくらいするのだろうと計算していたら、そばにいた人から話しかけられた。
「確かに見事な細工だな。私の国のおとぎ話にも宝石の雨が降って、花や草が宝石細工になる話がある。たくさんの宝石に先端の大きな紫の石。きれいだな」
「その人の作品は他も素晴らしいぞ。ヒヤシンスさんというのだが。警備を付けているが、盗難より最近の空間の歪みでどっか飛ばされないかの方が心配だが、こればっかりは対処しようがない」
「へぇ、そんなに宝石細工作っているのか。見たいなあ。その人にこないだのブルージルコン売ったら重宝されるかな」
「ユウさん、また金儲けに走っている。それに、もしもあれを持ち出そうとしたら僕だって怒るよ」
「とんでもないこと言うな、リョウタ。ところで、木の実はカラフルだが、木のてっぺんに付いてる実だけ大きな紫の石」
「ああ、それにあれは魔王を制したシンボルとも言われている。紫色は魔族の色、それを勇者の剣に見立てたような金の枝が貫いているから……あ、いや、悪かった。ボウズのことを言ってるのじゃないぞ」
おじさんは意気揚々と話していたがティモの存在に気づいて慌てて謝ってきた。
「別に……」
ティモが複雑な顔をしている。そろそろ引き揚げよう。
「じゃ、明日に備えて早めに宿に戻るよ。明日も市場で買い物して、あの見事な木を見に来るよ。いろいろ教えてくれてありがとう」
私達はおじさんに礼を言い、宿へ戻るために歩き出した。
「済まないな、ティモ。嫌な思いをさせたな」
「ううん、慣れてるから」
寂しそうに言うからにはあちこちでも似たような差別を受けてきたのだろう。
「でも、今夜の宿の人は同じ元魔族だし、この街で頑張っている人達もいる。よし! 景気づけにおねーさんが好きな物を奢ろう!」
「ユウさん、またカタツムリのオイル焼きとか、川魚の土中焼きやら、薬草サラダにドレッシング代わりにポーションかけるとか変なことしないでよ」
リョウタが無粋なツッコミを入れるので意地悪を言うことにした。
「じゃ、ウサギの丸焼きにするかティモ」
「そしたらまた二人で山分けできるね」
「ティモ君まで僕のことをいじり始めたか」
リョウタはため息をつくのであった。
(しかし、あの宝石細工の木、ユウさんはあの細工の宝石を一個二個ちょろまかす企みをしなければいいのだけど)
リョウタはまた難しい顔をしているが、どうせ今夜は自分の食べる分はあるか心配しているのだろう。これだからデ……メタボは。せっかくの法衣もメタボじゃ似合わなくなるぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます