第11話 リョウタ、再び女神と会う(もはや打ち合わせ)
気がつくとまたあの白い部屋にいた。
また女神からユウさんの悪口聞かされるのか、それとも魔王討伐に代わるミッションを見つけたのか。
「はあ、寝る時くらい、落ち着きたい……」
ぼやいているとまた女神グラジオラスが遅刻してやってきた。
「ごめんごめん、テーピングに手間取って」
「あの、僕の白魔法で治しましょうか?」
「気持ちは嬉しいけど、人間の魔法は神には効きにくいのよ」
「いえ、使わせてください。妻の不始末の責任もありますし、ここで使ってた方が鍛錬になります」
杖を振り、癒しの光を出す。少しは楽になるといいけど、元はといえばユウさんのせいだし、夫の僕が罪滅ぼしをしてあげよう。
「鍛錬? ああ、昼間のことね。君にはさすがに同情したわ」
「夫を容赦なく切りつけるのは何となくわかりますが、なんでノーチート、初期装備の青銅の剣であんなにモンスターをサクサクやっつけられるのか不思議です。完全にゲームの世界と思ってるから緊張感や死の恐怖が無いからでしょうが」
「……夫を容赦なく切りつけるのが理解できるって、あなたねぇ。それに彼女は単に凶暴なだけじゃ」
「何か言いました?」
「う、ううん、なんでもない」
グラジオラス様は慌てて首を振って否定したが、何か妻の悪口を言ってたような気がする。
「ところで呼び出した理由はなんですか? 魔王討伐に変わるミッションでも見つけました?」
「それがなかなか見つからなくて、空間の歪みとか問題は山積みなんだけど」
空間の歪み? 昼間のダンジョンのことを思い出して尋ねてみた。
「もしかして、今探索中のダンジョンのモンスターがやたらと地底湖が多かったり、海のモンスターが出るのも空間の歪みのせいなのですか?」
「そうなの。鋭いわね。今のところ一部のダンジョンが海と繋がっていたり、街の一角がいきなり山の麓へ移っている程度。でも、このまま歪みが続くと街のど真ん中に火山ができたり、港が地殻変動で埋まって陸地になったりなど、世界がめちゃくちゃになるのは確実。でも、その原因が見つからなくて。魔王討伐の方が早いでしょ?」
「確かに。ここと元の世界の時間の流れは知らないけど、妻には二十一日無断欠勤続くとクビになるからそれまでにミッションをこなそうと言うところまで誘導しました。残りはあと十九日。魔王討伐が早いかな」
ゲームなら突貫でレベル上げして攻略サイト利用すればできなくないが、残念ながら生身の身体だ。
「魔王が空間の歪みを作っている噂もあるけど、動機がないのよね。魔王だって暮らしがあるから、魔王城が湿地や水田に移動したら沈む訳だから」
なんと、ここにも水田があるのか、日本みたいに米でも作っているのだろうか。って、そこじゃない。
「むしろ、その魔王が怪しくないっすか? 動機はわからないけど、そんな離れ業をやってのける容疑者なんて他にいないでしょう。魔導師マーリンクラスの魔力が強い人が他にいるなら別ですけど」
「う~ん、魔王に近い魔導師の線も確かにありえる。側近の魔導師も人間含めて何人かいたし彼らも強かった」
「魔王や魔導師の怪しい噂とか、変な魔道具の噂がないか、街で聞き込みします。グラジオラス様も神々の世界の範囲で調べてください。僕達はダンジョン探索と並行しますから。ただ、残り十九日しかないから、情報収集が空振りなら無難に魔王倒しに行きます」
グラジオラス様はリョウタをまじまじと見つめてため息をついた。
「あなたはネコ型ロボットみたいな体型だけど、飲み込み早くて、優しいのになんであんな女と夫婦やってるのかしら? やはりマゾ?」
「余計なお世話です。ところで聞いてみたかったのですが、グラジオラス様は何の神様なんですか?」
「戦いの神よ」
(なるほど、グラジオラスの花言葉にも戦いの意味も含んでいる。類友でユウさんが来てしまった訳だ。いや、同族嫌悪か?)
リョウタは深く納得してしまった。
「何か変なこと考えてないかしら?」
「い、いえ、なんでもありません。それからゲームということにしましたので、ここにユウさんを呼ぶなら声だけにして運営のアナウンス風にしてください」
「わかった。頼むわよ、あの女の無双というか暴走を抑えられるのはあなたしかいないから。ヒーリング魔法ありがとね。じゃ、朝だからここまで」
「なんか体よく丸投げされた感があるなあ」
そうして、僕は目覚めたのであった。
「自分、ヤバい人やヤバい神様限定でモテるのか? そんなの嫌すぎる」
やはり朝からグッタリしてしまった。
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