第9話 やっぱりレベル上げや探索が何かがおかしい

 ここはダンジョンの地下三階。私が「スライム狩りに飽きた」と言い出したので降りてきたのだ。レアストーンも緑色のミントガーネットくらいであった。ダイヤやルビーもいいがやはりこういうレアストーンは魅力的である。バーチャルでも手に入るとうれしいものだ。

 リョウタは『当面、わらび餅と水信玄餅と一部の水ようかんは食べられなくなった』とブツブツ言ってるが。食べ物しかないのか、だからメタボに……いや、よそう。探索が先だ。


「そろそろ、コウモリ系やゴブリンが出る頃かな。一階の獣人は特殊なケースとして」


 リョウタがキョロキョロと見渡すが薄暗くてよくわからない。


「どうだろう。全体的に湿っぽい匂いというか潮の匂いがする。一階の地底湖とはまた違うタイプの沼がありそうだ。さすがに第三層だから光も届かないし、松明も未整備だ。一階の獣人達が占領してたせいでもあるが」


「潮の香り? 確かにするね。変なダンジョンだなあ」


 リョウタは不安そうに周りを見渡す。やはり怖がりだから、魔道士になったのだろうな。戦士には向いてない。


「って、リョウタは魔導士なんだから灯りを灯す系の魔法あるだろ? 使えばいいじゃないか」


「あ、そっか。えーと、スイッチオン!」


 すると、杖の先が光って松明のようになった。私は呆れてリョウタに文句つけた。


「あのさあ、ファンタジーゲームなんだから、もう少しセンスある呪文にしてくれ」


「いや、思いつかなかったから適当にやったら発動した」


「雑なゲームだなあ。無料モニターかつ無課金勢じゃなければ運営にクレームつけるところだ」


(こんな呪文で発動するなんて。ホントにあの女神様は雑な神様だな。凶暴さを除けばユウさんと性格似てるかも)


「リョウタ、何か言った?」


「い、いえ、なんでもございません」


 慌ててリョウタは頭を振る。気のせいか悪口を言われたような、しかもなんかムカつく奴と同類にされたような気がする。いや、探索が先だと思い直して落ち着かせる。


「さて、灯りもついたし探索するか」


「もうちょい明るくならないかなあ。強い光の呪文……はい、チーズ!」


 次の瞬間、まばゆいフラッシュのような光が走った。唱える呪文のセンスが更に下がっている。


「……リョウタ、スイッチオンでいい。それは単なるフラッシュじゃん。さて、何があるか……うわっ!」


 私が思わず叫んだ先には半魚人がいた。でも目を押さえてフラフラとしている。


「えーと、これは確かサハギンという半魚人だ。海にいるモンスターなんだけど、強い光に弱いから今のフラッシュで目がくらんでいるみたい」


 リョウタはゲームやファンタジー小説に詳しいからスラスラと教えてくれた。


「半魚人……確か人魚の肉を食べると不老不死になるのだっけ?」


「ユウさん、それは別の漫画。それにあれは体質に合わないと死んだり化け物になるやつ」


「ゲームだからいいじゃないか。倒すと消滅するのなら活け造りにするか」


「ユウさん、そんな無茶な!」


 リョウタが止める間もなくスパッと首筋を切り付けた。さっきのカメラフラッシュもどきで目がくらんで動きが鈍かったから楽に切りつけることができたようだ。


「で、血を抜いて活け締めにしておけば味は落ちないはず、それで内蔵と血合いを取れば……」


「あの、鯵やマグロじゃないんだからさ。なんでそこでグルメにこだわるかな」


 しかし最初の一撃が致命傷だったのか、サハギンは呆気なく死に、ポンと言う音と共にポーションに変わった。


「チッ、活け造りって難しいな。調理師免許取れば良かった」


「ユウさん、そういう問題じゃない。って、もしかして活け締めと活け造りを勘違いしてない?」


「違うのか?」


「ダメだこりゃ。とにかくこの世界はモンスターが死ぬとアイテムや金貨になるから! 食用になるならとっくに商品になってるよ」


「よーし! ならば商品化第一号にして儲けるか」


「ユウさん、人の話を聞いて。それに二十一日以内にクリアしないと僕達は無断欠勤で懲戒免職だよ」


「む、そうだった。じゃ、商品化は諦めて試食程度にするか」


「だから食べようとするの止めて。大人しく宝探索や普通に退治にしようよ。さっきからユウさん無双状態だから、僕は治癒魔法全く使えず、灯り魔法しか使ってないからレベル上げもできてない」


「じゃ、ほれ」


 そういうとユウはリョウタの腕をチョンと切った。軽い気持ちで切ったが、かなり痛そうで血が出ている。ちょっと力加減間違えたかな。


「これで治癒魔法使えるだろ?」


「ユウさん……思いっきり何かが違う」


 リョウタは半泣きになりながら、自ら治癒魔法をかけるのであった。


 そうして治癒魔法に気を取られていたからか、後ろから新たなサハギンがリョウタの背後を取っていた。まだ目がくらんでいるらしくフラフラとして手をバタつかせて闇雲にひっかこうとしている。


「リョウタ! 伏せろ!」


 私は強引にリョウタの足を引っ掛けて転ばせ、後ろのサハギンの胸を一突きして倒した。


「危なかったな、ケガしているじゃないか。魔法をかけていても注意は怠るな」


「……誰のせいだと思ってるのですか」


 さらに半泣きになりながらもリョウタは新たに出来た擦り傷やアザにも治癒魔法をかけた。


「さて、治った。しかし、変だな。さっきも言ったけどサハギンは海のモンスターだ。なんでこんなダンジョンに? 地底湖ならぬ地底塩湖なのか?」


 リョウタは違和感を感じているのか涙目になりながらブツブツ言っている。海だろうが淡水だろうが、そういうゲームだと割り切ればいいのに。

 それにしても半魚人の試食はしてみたいものだが、やはりそういうプログラムはされていないのだろうか。残念だ。せめて宝石は何か新しいものが出ればいいが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る