第8話 資金稼ぎと討伐が何かがおかしい

 二日目の朝になった。しこたま飲んだ割にはスッキリとした目覚め。あのエールは残らない良い酒か、ゲームらしくステータス異常としての二日酔いは無いのだろう。


 リョウタはというと、夢見でも悪かったのかゲッソリしている。朝ごはんまで寝直すか聞いたが、「起きてないとやってられない」とよくわからないこと言ってるから、起きることにしたようだ。


 しかし、宿屋に泊まれば全回復のはずだし、時には「セーブしますか?」のウィンドウも出るはずだ。「ステータス」以外に「セーブ」と叫んだが何も出なかった。やはりゲームを終えたら運営に文句を付けなくてはならない。詫び石の一つもないとは。そういえばこのゲームにはガチャがない。ガチャはまだ未装備なのかもしれないが、無課金勢としては無い方がありがたい。それとも気付きにくいようにガチャ設定してあって、イベントのふりをしてガチャをさせる鬼畜仕様なのか。何かを選ぶとか、仲間にするイベント時は注意しよう。


「ユウさん、運営のページ見られたよ。ユウさんの言ってたステータスの下にあった。多分ユウさんが見られないのはバグだと思う」


 朝ごはんの席に着いたリョウタは言った。あれほど異世界と言ってたのにやはりゲームだったのではないか。私は正しかったのだ。


「フリーシナリオタイプで、何か目的を果たすといいみたい。一番手っ取り早いのは封印が解けかかっている魔王の再封印とか。で、セーブは不具合で修正中だって。しばらくここでプレーするしかないよ」


 それを聞いて、仕事は無断欠勤にならないだろうかと心配になった。昨夜リョウタが言った通り、お互いに公務員だから無断欠勤が二十一日続くと懲戒免職となる。それまでには運営にもなんとかしてもらいたい。


「それでさ、今日は早速昨日のダンジョン探索をしてみない? とりあえず地下二階で宝箱取ってさ。多分出るのはスライムくらいの弱いモンスターだろうからレベル上げにもいいし、優先権は期限あるし」


 リョウタの言うことには一理ある。手強ければ撤退もありだし、何よりも優先権を使わないのはもったいない。彼の案を採用し、昨日のケッペルズ・ダンジョン探索をすることにした。


〜〜〜


『プスッ、プスッ、プスッ』


「あの、ユウさん。モンスターのやっつけ方がおかしくない?」


 ここはダンジョンの地下二階。予想通りスライムが大半なので地道に倒して、手付かずだった宝箱もいくつか開けた。しかし、リョウタが引きつった顔で私にツッコミを入れてくる。


「何がおかしい?」


「スライムは柔らかいから刺しただけでは死なないよ。真っ二つにぶった斬るの本来の倒し方なのはさっきわかったじゃない。でもユウさんは剣に刺しまくって、まるでお団子にしてるから、それでは死なないよ」


 確かに傍から見れば串団子のスライムバージョン、パッと見は巨大なわらび餅の串刺しで異様に見えるかもしれない。


「わかってないな、リョウタ」


 チッチッチと剣を持ってない方の指を振り、ドヤ顔で私は解説を始めた。


「?」


「モンスターは死ぬと金貨や宝石、アイテムになるだろ?」


「それは昨日の獣人で学んだよ。そのスライムも死ぬとアイテムになってるし」


「で、ここにはうじゃうじゃとスライムが湧くように出てくる。ひとつひとつ切ってたら時間がかかる。だからこのお団子状にした剣を勢いよく振れば、慣性の法則なりなんなりで、まとめてスパーンと切れる。アイテム回収も効率良いのさ」


そうして剣を降るとスライムが一気に切れた。青いモンスターで初級のせいか、宝石はアクアマリンが多い。これらは宝石でも安定供給されているからな。


「いや、死なないということはスライムを苦しめているのでは?  それに重くない?」


「いや、大して重くない。スライムだから人権は無いだろ? どうせゲームだし」


「『残酷なる凶暴』……か」


「リョウタはどうせ杖ではスライムをやっつけられないだろうから、引き続き宝箱探索とスライムを見つけたら教えてくれ」


「はあ……ちょっとだけスライムに同情する。それからわらび餅食べられなくなりそうだ」


 リョウタは何やらグチグチ言ってるが、二の腕ダイエットにもなりそうだし、いや、VRゲームだから体力は大して鍛えられないのだった。ま、とにかくちまちま切るよりこの方が効率がいいのにわかってないな。


「しかし、次から次へとスライムが出るなあ。せめて僕の杖の先っちょで刺してダメージ与えられないかな。同行してるだけでも経験値は入るけどさ、もう少し何かしたい」


 リョウタは杖の尖った方でスライムをつついてみた。杖なんて跳ね返るだけだと思っていたが、表面の皮がパチンと弾けて剥けたのにはこちらもビックリした。


「うわあああ!」


 しかし、スライムはノーダメージらしく皮を脱いでそのままモソモソ動いている。


「うう、プチッと破るプリンと玉羊羹も食べられなくなりそう」


 何やらリョウタは嘆いてるが食べ物関連ばかりだ。だから彼は脂肪肝にメタボなのだ。しかし、VRでもやはり体調や動きに影響あるのか? まあ、ヒーラーだから後衛だし何よりゲームだからヒットポイントの心配だけにしておこう。あと、アクアマリン以外のレアストーンも出るかもしれない。アクアマリンでもミルキーな色合いとか個性的なインクルージョンなら買値も低いからコレクションに入れられる。ふふふ。


「よし、宝箱は大方とったし、レベル上げにあと数十匹ほどスライム団子にして、レアストーン見つけて三階に降りるか」


「お願い、これ以上食べられるお菓子を減らさないで」


 リョウタは泣きそうな顔して懇願してきた。知るか、こっちは無課金勢だから稼げるものは稼がないとならない。

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