第39話 ガーゴイルの倒し方が何かがおかしい
その後もモンスターを倒したり、行商人から物資を補給してきたが、ユウさんの名が知れ渡ってきたらしく名乗ると驚かれるようになった。
「あのユウか!」と言葉だけ聞くと強い剣士が来たように思えるが、顔は「やべぇ奴が来た」と書いてあるのがひっかかるが。
そのおかげか、値引き交渉はスムーズであった。噂にどんな尾ひれがついて凶暴さが増しているのか聞いてみたい気があったが、本人の目の前で聞くわけにもいかない。
そして、評判は人間や魔族だけではなかったようだ。
「ほほう、貴様がユウか。倒せばあの方へいい手土産になる」
中ボスお約束のセリフを吐きながらガーゴイルが現れ、じりじりと迫ってきた。やはり魔王の封印が解けているのか。「あのお方」というのは彼でその手下なんだろう。
「リョウタさん、僕の後ろに回って後方支援に徹して。僕はかく乱と攻撃をするから」
「わかった。少しスピードアップする魔法もかけるよ」
僕たちが配置を決めているときにユウさんはまじまじとガーゴイルを見つめていた。
「ほほう、ガーゴイルは初めて見るが、本当に石でできているのだな」
「何を今更。剣では叶わないと怖気づいてしまったか」
ガーゴイルは翼を羽ばたかせ、上空から攻撃態勢をとっている。どんな攻撃かわからないが、硬い体だから体当たりだとしても相当なダメージのはずだ。
「ふむ……。石は火成岩、もしかすると大理石かな」
ユウさんは何やらぶつぶつ言っている。鉱石マニアがこんなところで出てくるとはまずい。石の分析よりどうやって倒すかだろ。
「ほほう、よくわかったな。あのお方のおけげで美しい大理石の体を手に入れた」
いや、話に乗る中ボスもどうなのよ。
「大理石はいいよね、美しいから美術品にもなるし。でもね……」
ユウさんはザックからを酒瓶を取り出し、ガーゴイルへ投げつけた。中身がガーゴイルにぶちまけられて酒臭くなった。
「酒をふるまうにしては乱暴だな。レディはもっとしとやかにお酌するものだぞ」
「ティモ、風を敵の方角へ吹かせろ!」
「わかった! ウィンドカッター!」
「いや、単なる大風で大丈夫」
「え? ストロングウィンド!」
「このタイミングで炎水晶!」
ユウさんは投げつけた炎水晶と酒、ティモ君の風がふいごとなりガーゴイルは一瞬だけ業火に包まれたが、効き目は短く、すぐに燃え尽きた。案の定、煙の中から無傷のガーゴイルが現れた。
「クックック、効かねえな」
「そんなのわかっているよ」
「え?」
「アイテム攻撃第二弾、くらいな! 氷水晶!」
もくもくと煙があがっているガーゴイルに今度は強烈な冷気を襲う。
その瞬間、ピシッという大きな音がしてガーゴイルの体にヒビが入った。
「な、俺様の体が!」
「はい、止め、と」
ユウさんは片翼の根元にプラチナソードを投げて、片翼を割ってしまった。
「しまった! 墜ちる!」
そのまま、ガーゴイルは墜落し、いくつかに割れてしまった。普通は墜落しても割れないはずなのに。何が起きたのだ?
ポカンとしているティモ君と僕にユウさんは解説してくれた。
「大理石は美しいが、意外ともろい。酸と熱に弱いんだ。火と酒を使って燃やして石を熱くして、氷魔法で急冷されると温度差についていけずにヒビが入る。リョウタはよく、皿洗いで失敗しているだろ? コーヒー飲み終えて熱々のカップを冷たい水にかけて割れるやつ」
「う、うん。よくユウさんに怒られるやつ。でもわざとじゃないのに関節技しなくても良かったじゃん」
「あれはお高いジノリのカップだったからだ。いや、話を戻そう。その原理を利用したわけ。それだけじゃなんだから、武器を投げてうまく翼が折れてくれれば墜落すると見込んだのだが、墜落して自重で砕けたのはラッキーだった。『あのお方』とやらは見た目ばかり気にして実戦向きでなさそうだ。
リョウタのクイック魔法のおかげで連続攻撃できた。ありがとうな」
斜め上すぎる退治方法についていけない。鉱石マニアや理科の知識が役に立ったと思うけど、こんなのありか?
「さて、金貨にならないなら中心部のきれいな部分を切り落として商人に売りつけるか。小物の彫刻には向いている大きさだしな。あ、リョウタすまないな。また剣士の魂というべき剣を投げてしまった」
そう言ってユウさんは鼻歌を歌いながらプラチナソードを回収して器用に石を削り始めた。
「僕、いろんな常識が崩れていく気がする。剣士なのに剣を使った戦いは数えるほどしか見てない」
「僕もだよ、ティモ君」
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