第13話 武器屋にて

「街の異変ねえ。確かに噂になってるね。河口でも無いのに海辺に淡水魚が打ち上げられたり、高山植物が近所の原っぱに群生したりと、確かに何だか変なんだ。だから農家は自分の畑がどっかに行きやしないか不安がってるよ」


 立ち寄った武具屋でも店主は宿の主人と同じようなことを言った。歪み現象はかなりあちこちで起きているらしい。


「やはり、魔王の封印が解けているのじゃないかとか、魔王の座を狙う魔導士コニャックの仕業、少なからずいた魔王信者が復活の儀式を失敗した影響だとかいろんな噂が飛び交ってるよ」


 しかも容疑者が複数いるらしい。ゲームだとあからさまな容疑者フラグが立つのに、難易度の高いゲームだ。聞き込みはまだ続きそうだ。


「ところで、この剣で本当にサハギンやセイレーンやっつけたのですか?」


「ああ、セイレーンは物理的攻撃じゃないけどな」


「それはすごい。普通は鋼の剣にしないと折れるのですけど剣の使い方が上手いのですね」


 そんなに褒められると照れる。いい気になって高いもの買ってしまいそうじゃないか。無課金勢にも課金させようと言う魂胆と分かっていても満更でもない。


「そうですね、あなたほどの強さで剣の扱いに長けてるならお求めの鋼よりちょっとランクアップしたミスリルが向いてますね。刃こぼれしにくく、女性向けのサイズもあります」


「ふむ、男性用と二つ試させてくれ」


「え? 青銅と違って重いですよ?」


「だから試してみたい」


「はあ」


 店主は半信半疑な顔をしながらミスリル剣を二つ出してきた。片方は今まで使っていた青銅の剣と同じ大きさ。これが一般的な剣、もう一つは一回り小さく刀身も細く、レイピアに近い。

 持ってみると確かに通常サイズは重い。女性向けは今までのより少し重いというところか。


「女性向けは確かに小さいですが、小回りが効くメリットもありますから女性剣士に好評ですよ」


「うーん、男性用でもいけそうだけど……」


 ここは素直にプロの言うことを聞こう。私は女性向けのミスリル剣を買うことにした。慣れたら男性用にしてもいいし、ランクが上のプラチナソードにでもすればいい。


「で、僕の杖も魔力と強度の強い物に替えたいのだけど」


 リョウタが要望を言うと店主が不思議な顔をした。


「魔力はともかく、なぜ強度まで?」


「ユウさんに少しでも物理的攻撃をしろと言われてるもので。まだ攻撃白魔法覚えてないからと」


「……大変ですね。ならばトネリコ杖の中から一番堅くて魔力の強いのを選びますか」


 何だか店主が哀れみの目でリョウタを見ているのは気のせいか。私は真っ当なことを言ってるつもりなのだが。


「それとも仕込み杖にします? 他の異世界転移者から教えてもらって作ったのですが、捻ると小刀が現れますよ。魔法使いで使っている人はいませんが、教えてくれた人によれば『ザトウイチ』という盲目の剣豪が使っていたとか」


 異世界転移者? 他のプレイヤーのことか? 変わった言い回しだな。


「それ、魔力あるんすか?」


 リョウタが不安げに尋ねる。そりゃそうだ。座頭市は魔法使いではなかったし、あれは抜いたらその後は小刀だ。


「まあ、材質はトネリコだけど、魔力は魔法使いのそれより落ちるかな。作ったはいいがあまり売れないね。あとはハンシンファンという異世界転移者から聞いた『バット』という打撃用武器があるけど、これはバーサーカー用ですし。ちなみにこれは教えてもらった通りの黄色と黒ですが、お好きな色に塗り替え可能です。一応トネリコ製だから魔力はそこそこありますよ」


「……一番堅い普通の杖をください」


「はいよ、在庫あるか探すからちょっと待ってて」


 そう言うと店主は店の奥の在庫を見に行った。

座頭市リョウタや阪神ファンリョウタも見たかったのだが、残念だ。そんな私の顔を見て察したリョウタが反論してきた。


「ユウさん、仕込み杖を開けた後は魔法すら使えない役立たず剣士もどきということだよ。それに僕は巨人ファンだよ。地雷踏ませてどうするの」


「むむむ、それもそうか。この分なら隣の防具屋にユニフォーム型の防具があるはずだから『かっとばせー』とか言って敵を殴るのも見物なんだか」


「ユウさん、僕に何の期待をかけているの?」


「お笑い担当」


「そこは回復役でしょ!」


「面白そうだから私が仕込み杖を予備の小刀代わりに買おう。魔導士に変装という時にもカムフラージュになりそうだ」


「どういうシチュエーションで変装なんだよ……。今日は午後からダンジョン探索を続ける予定でしょ」


その時、店主が店の奥から出てきた。


「あー、お客さん、すみません。お求めの一番硬い杖は品切れですね。明日か明後日に商人が来ますが」


「そ、そんな。今日もこの杖か仕込み杖なのかぁぁー!」


「そういうことだ。仕込み杖で我慢しろ」


 リョウタがなんか言ってるが、予備ということで仕込み杖を購入した。次は防具屋だ。高めの剣を買ったり仕込み杖を買ったから予算オーバーしてしまったが、まだお金はある。しかし、いつ課金が必要になるかわからないから用心だ。

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