第14話 防具屋にて同情されるが、やっぱり何かがおかしい
「ええと、新しい鎧と兜にローブね。で、古いのは下取りと」
防具屋のおじさんは僕たちを見て、不思議そうな顔をした。
「普通は戦士の方が傷みがひどいのですが、何だか逆ですね」
そう、凶暴なるスキルで倒し続けたユウさんの防具はほとんど無傷。対して鍛錬と庇う為とはいえ、すっ転ばされ続けた僕のローブは繕いはしたがボロボロだった。
「じ、自主錬をしすぎて」
僕は苦笑いして誤魔化した。って魔導士の服がボロボロになる自主錬ってなんだよとセルフ突っ込み入れたくなる。
「鎧と兜は高く下取り出来ますが、ローブは難しいなあ。下取りしてもお金は出せないよ」
「じゃ、いいです。鎧と兜だけで」
ユウさんが即決で口を挟んできた。取っておいて本気で魔導師の変装用にするのか? 何も考えてないのか。
「剣はミスリルにしたけど、鎧は鋼かなあ」
「お客さん、鋼は確かに硬いけど重いよ。ミスリルの方が鋼より動きやすいよ」
「またそうやって課金させようと……むぐぐ」
「あ、ちょっと予算を確認しますね」
僕は慌てて彼女の口を塞いで誤魔化した。
(なぜジャマするのだ、リョウタ)
(課金だなんて異世界……いやゲームのNPCに通じる訳ないだろ)
(なるほど、それもそうだ。それで、残金はいくらだ?)
(えーと、金貨二枚に銀貨五枚、銅貨はユウさんが曲げる仕込みしたやつが八枚と普通のが五枚。宝石は換金済で今は無し)
(む、思ってたより残金が少ない。下取り金入れても二つともミスリルと魔導士ローブは厳しいかなあ。面白半分で仕込み杖買ったのが仇になったか)
(ユウさんのコレクション石売れば少しは足しになったのに)
(あの石たちは売らん)
(ゲームなら持って帰れないでしょ!)
「お客さん、決まりました?」
「じゃ、ミスリル鎧と兜で」
「ユウさん、あの、僕のローブは……」
「今日のダンジョンで稼げはいいさ」
うう、今日もこのボロいローブと杖なのか。何だか泣きたくなってきた。
「大丈夫さ、私が守るから」
「ユウさんの場合はそれが怪しいんだよっ!」
今夜の宿でも繕い物をしなくてはならないのかと思うと気が重くなってきた。
「あ、そうそう。この街で魔王復活の噂とか聞きませんかね」
ユウさんは思い出したようにここでも聞き込みを始めた。
「魔王? 変なことは起きてるけど、サイドの谷に封印されてるのだろ?」
やはりあちこちで聞いた話と同じだ。
「と、言ってもサイドの谷は王国軍がガッチリとガードしているから、簡単に封は解けないと思うけどな」
「ちなみに、それは何年前に封印されたのだ?」
「そろそろ二年経つかな」
「三回忌の法要をしてないから祟ってるのじゃないか?」
「ユウさん、封印だけで死んでないよ。それに三回忌は仏教だからこの世界の神様じゃないし」
「いや、念仏の一つでも唱えれば封印強化されるかも」
「一般人が念仏を諳んじることできるの?」
「んー、趣味で写経してたことはあるから般若心経ならなんとか」
「そ、そう……今度からモンスターやっつけたら成仏を願った方がいいのじゃない?」
「宗教が違うと言ったのはリョウタの方だろ?」
妻の凶悪さの業を減らしたかったが、そっちの説得は失敗したようだ。
「とにかく、午後は鍛錬と資金稼ぎ。ローブ類は後回し、どうせ治癒魔法あるだろ」
ううう、結局僕の武器や防具は後回しなのか。
「あの、さっき下取りした中古杖とローブで良ければ安く譲るけど」
店主から思わぬ救いの声があがった。
「え?! いいのですか?」
「ああ、異教のローブと杖だから下取りしたものの、この街には信者が少なくて僧侶もいないから売れないんだ。
東方から商人が来るまで保管しようと思ったが滅多に来ないし、今の話からして君に合いそうだし、このまま在庫になるのなら、使ってもらった方がいいのじゃないかな」
「あ、ありがとうございます。せめて銅貨を残り五枚だけど、出します」
なんていい人だ。僕は二つ返事で有難くいただくことにした。
……数分後、着替え終わった僕を見てユウさんは笑いをこらえるのに必死だった。
白い着物、黒い上着は右肩だけを出している。金属製の杖は先に輪っかがいくつも付いている。この格好は僕達の世界でもおなじみの……。
「ぶ、仏教存在するじゃん、お坊さんも、まあ神通力あれば魔導師の一種だよな。ぷぷぷっ! 良かったなあ、武器と防具を新調できて」
どう見ても仏教の袈裟と錫杖だ。
「ブッキョウはブッディストの事だろ? それは東の民族の宗教だからね。その人は結婚のために改宗したからと売りに来たのさ。確かに丈夫で良い生地なんだけどリメイクしにくいし、信者が少ないから売れない。
さっきハンニャシンキョウと聞こえたから君たちはブッディストみたいだから宗教的に合うのじゃないかとね」
「リョウタ、いっそ坊主になる?」
「固くお断りします。でも後で般若心経教えて」
女神グラジオラス様にお釈迦さま、僕は異世界で何を目指しているのでしょうか?
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