第17話 大人を舐めてはいけません

「あれ? 優先権は今日までだから僕達とモンスター以外は居ないはず」


「何者だ!」


 初めてユウさんが剣士らしく叫んだ。


「あ、ごめんごめん。あんた達のやり取りが面白くって。しかも倒し方もおかしくって」


 出てきたのは子どもであった。しかし、耳が尖っているからエルフかもしれない。ならば大人かもしれない。それとも別の種族か? 青い髪の毛、顔色も人間のそれではない薄紫だから魔族なのだろうか? 魔王も魔族だし。この世界観が分からないから敵か味方なのかわからない。


「小僧、質問に答えろ」


「いやあ、セイレーンの時も愉快だったよ。音鳴らして泣かせたり、音痴な歌で退治したり、剣や魔法以外の退治なんて初めて見た」


 相変わらず子どもはクスクス笑ってる。ユウさんは音痴と言われたことに青筋を立てたのを僕は見逃さなかった。あの子は地雷を踏んだなと確信していると、彼女は少し苛立って再び質問した。


「もう一度言う。小僧、質問に答えろ」


「冒険者達が手こずってたダンジョンを一掃したすごい人達がいると聞いて、後をつけて様子見させてもらってたんだ」


 子どもはニヤニヤとして一向に質問に答えないので差し出がましいようだが僕は彼に警告した。


「君、質問に答えた方がいいよ。僕達の国には『仏の顔も三度まで』ということわざがある。間違いを許されるのはどんな優しい神様や人でも二回まで。あとはブチ切れられるという意味だ。君は二回目の質問を無視した。ここまで言えばわかるよね?」


 僕はユウさんの凶暴なるスキルを発動させまいと説得をしたのだが、同時にユウさんの機嫌も損ねる諸刃の剣だ。やはりユウさんは僕をにらみつけてきた。


「リョウタ、さっきもそうだが、貴様はどっちの味方なのだ」


「へー、じゃ、三回目も答えなかったら?」


 その瞬間、ユウさんは素早く子どもの後ろに周り、首元に剣を突きつけながら三度目の質問をした。


「な……この僕の裏を取るなんて!」


「三度目の質問だ。小僧、何者だ。答えなかったら首と胴が生き別れになるぞ」


「ユウさん、それは生き別れないで普通に死ぬと思う。ね? 君、言ったでしょ? この人、短気だから三度目に答えないと言葉通りに実行するよ? 念の為言うけど、この国での剣士のレベルはまだ低いけど、東方の国のカタナを使った剣術の達人だから」


 そこまで言ってやっと状況を理解したようだ。顔色の悪いエルフ(仮)はニヤニヤした顔を引っ込め、ガクガクと震え出した。ユウさんはゲームと思っているから殺すことに罪悪感は無い。それ故に凶暴なことをいつもよりためらい無くやるし、女神もそれをスキルにするなんて、例えるならタイカレーにハバネロいや、その五倍の辛さがあるキャロライナ・リーパーを振りかけるみたいな最悪さだ。


「す、すすす、すみません。僕はティモと言います。魔族と人間のハーフです」


「魔族? 魔王と同族なら討伐対象だな」


 ユウさんがチャキッと剣を首に当てようとしたのをティモが必死に弁明する。


「ま、まま、待ってください! 魔族と人間は共存してます! それに教会で洗礼受けると人間と同様になれるし、洗礼済です! それに元々は僕は半分人間なんだから!」


 確かに彼のおでこに光る紋様があった。きっと洗礼の印だ。


「最初からそう言え。親の躾がなってないな」


 ユウさんはとりあえず気が済んだようで、剣を鞘にしまった。良かった、今回は凶暴なるスキルは発動しなかった。


「……僕、その親を探して旅してるのです」


「え? ご両親どうして居なくなったの?」


「魔族は人間と共存してはいるのだけど、ニ年前の魔王封印の後に、魔族排除運動が始まってきて、お母さんは僕を心配して借金してまで僕に光の洗礼を受けさせてくれたのだけど、そのお金を返すために働きすぎが祟って病気になって半年前に死んでしまって」


「父親は?」


「お父さん、三年前の魔王討伐軍の兵の募集に参加して魔王と戦ったらしいけど、軍はほぼ全滅。その一年後に勇者が現れて封印ってわけ。お父さんの遺体も見つからなかったと言うし、どうしているのか分からない。

 孤児院行っても、この姿じゃいじめられるし、お父さんを探すにも一人じゃ難しいし、冒険者と一緒に旅をしたかったんだ。でも、この姿だから嫌われたり、断られたり。お姉さん達も魔王倒しに行くのでしょ? お父さんを最後に見かけた所なら何か手がかりあるかもしれない」


「見返りは?」


 ユウさんは淡々と尋ねた。


「ユウさん、浪速の商人よりもエグいよ。話からしてホントに子どもじゃない。しかも一人ぼっち」


「リョウタは人が良すぎる。

 こんな難易度が高い子どもの魔族とのハーフというハードモードを選択して、半年間ノーコンティニューでプレーしてきたということ、さっき背後を取った時『この僕の裏を取るなんて』というセリフ」


「何の話?」


「つまり、半年間もこのハードモードでプレーし、尚且つ私達が気づかないように跡を付けることができるということは、この子はとても素早さに自信がある。ならばジョブはシーフで重課金ユーザー。だから仲間になるなら、モンスターからレアアイテム盗めるとかワナを解くとか難易度が高い特技無いとメリットないな」


「ああ、それなら大丈夫! 鍵なら簡単に開けられるよ! 他のダンジョンでもモンスターのヘソクリかっぱらったこともあるし」


「ふむ、重課金勢なら使えるな。レベルは?」


「今は十五だよ」


「レベルも僕達に近いし、足を引っ張ることもなさそうだな。ダンジョンで鍛錬したら魔王の封印されている谷へ行くつもりだったし。でも、シーフって泥棒でしょ? 僕たちのお金とか大丈夫?」


「その時はこの子を居合抜きの的にするだけさ」


「い、イアイヌキって何?」


 ティモ君が怯えた声で僕に訪ねてきた。


「一瞬でスパっと人を真っ二つにする東方の剣術。ちなみに僕の恰好も東方の宗教のいわば神父の恰好」


「と、とと、とにかく二人が、が、外国からの冒険者だからいろいろ独創的なんだね。だから僕の姿にもあまり驚かない訳だ。お願い、僕も連れて行ってください」


「どうする? ユウさん?」


「まあ、このゲームの他ユーザーが半年も前からやっていたという点は疑問に思うが、重課金勢なら強いし、使えるな。入れてもいいよ。私はユウ、彼は夫のリョウタ。よろしくな」


「よろしくです!」


 ティモ君は元気よく挨拶した後、僕の元に来て小さく尋ねてきた。


「ねえ、ハードモードとかジュウカキンゼイとか何のこと?」


「妻はいろいろと頭に障害を起こしているんだ。少し意味不明なこと言っても、聞き返すのは止めた方がいいよ」


「う、うん。逆らってはいけないのはよーく、わかった」


 こうして魔族と人間のハーフの子でシーフのティモ君が仲間に加わった。

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