第16話 ゴーレムの倒し方が何かがおかしい。目指すのは勇者でしょ!宝石加工職人じゃない!

 五階に再びワープすると熱気がまだ残っていた。そりゃダンジョンというくらいだから、グネグネした道なんて換気は悪いに決まってる。焼物には不向きだと思うのだが、とりあえず確認に向かう。


 確かにゴーレム達は焼けていた。縄文式土器のようないわゆる素焼きの焼物になっており、動きは封じられている。


「このまま素焼きの置物として売れないかなあ」


「どうやって運び出すのさ。それに需要があるとは思えない」


「しかし、こうして形が残っているということは完全に死んでないのか。しぶといなあ、割れないかな」


 ユウさんが適当な一体を剣の柄でガンガンと叩いたら、ヒビが入り、ムワッとした熱気と共に割れたゴーレムの中から金貨が二枚出てきて消滅した。宝石は熱に弱い物だと燃えてしまってるだろうし、ポーションなども仮に残っていたとしても変質して使えないだろう。安全ではあるが効率が悪い倒し方だ。


「何だか、鯛の塩蒸し焼きを連想させる……」


「ふむ、中に鶏を仕込めば美味そうだ。中華のこじ……いかん、放送禁止用語だから『鶏の土中焼き』か『富貴鶏』の方がいいか。それと同じ理屈だな。しかし、どうやって致命傷にならずにゴーレムを切りつけて鶏を仕込むかが問題だ」


「ユウさん、ゴーレムじゃなくても出来る料理だよ……どうしてもグルメにしたいのだね」


「それはさておき、金貨は溶けてしまってるから金塊として売るとして、宝石でも耐熱性のあるものは残ってるかな。ダイヤは六百度だか八百度で燃え尽きるから、他のは……おっ! ジルコンが綺麗なブルーになってる。こんなところで加熱できるとは」


「ジルコニア?」


「間違われるけど、ジルコニアは合成。ジルコンは天然石だから別の石。元の色は茶色だから加熱してブルージルコンとして売られることが多い。このゲーム内で、もし宝石の加熱という概念が実装されてなければ希少石として高く売れそうだな。おっ、アメジストがいい感じに焼けてシトリンもできてる。どちらも天然石として売れば……」


「ユウさん、加熱してるから人工石なんじゃ。詐欺は良くないよ」


 するとユウさんはチッチッチと指を揺らしてドヤ顔をした。


「ちゃんと定義はある。加熱処理とオイル含浸によるヒビ消しは昔から行われているから天然石として認められている。他のゴーレムからもいくつか取れそうだな」


 ユウさんは鉱石と宝石マニアだ。まさか異世界で出てくる宝石にまでこれほど執着するとは。本当に異世界と気づいたら『異世界にしかない宝石を見つけに行く!』と宝石ハンターになりかねない。とすると、魔王そっちのけになりかねない。


 全てのゴーレム焼きからジルコンとシトリンを回収してホクホク顔のユウさんにはさすがには苦言を呈した。


「あのさ、ここでチマチマと宝石職人してもクリアできないよ。君は剣士なんだからさ、剣士らしく、ちゃんと買った剣を使って魔物を倒そうよ」


「やだ」


「やだって、僕の防具は後回しにしてまで高い武器買った意味あるの?」


「うーん、素材を統一させたオシャレのため?」


「ううう、ひどい妻だ。宝石もまたコレクション用にいいやつを取っておきそうだし」


「そりゃ、この世界は最初から原石じゃなくゲームらしくカット済だし、プレイ中も眺めてたいじゃないか」


「その結果がこのお坊さんコスですよ」


「似合ってるぞ」


「そういう問題じゃないとわかってて言ってるでしょ」


「さあ? なんのことやら」


「やはり鬼嫁だ。でも、ここでゴーレムばかり焼いても収穫はそのブルージルコンとシトリンだけだよ。もっと探索すれば高い石やレアストーン出るのじゃない?」


「う……確かにそうだ。ここで終わったらそこまでの宝石しか無いし」


「少しは僕のことも考えてくださいぃ!」


「アッハッハッハッハッ! 面白いコンビだね!」


 ユウさんが悩み、僕が半泣きでいると、どこからか子どもっぽい甲高い笑い声が聞こえてきた。

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