第46話 リョウタ、熱い目に遭う(体には良い)
「あ゛づ い゛~」
その日の宿では僕の悲鳴が上がっていたが、予めユウさんが宿の人に根回ししていたので誰も駆けつけはしなかった。
ケアヒ草はほとんどもぐさであった。そしていつものてんこ盛り。そりゃあ、重い錫杖を持っているから肩や腰に負担はかかるし、傍目に見れば身体のメンテナンス中だが、ユウさんの記憶が無いだけで浮気の濡れ衣の罰を受けている訳だ。
「うむ、バーチャルながらいい感じにお灸できているな。それになんだかわからんが私もすっきりした気分だ」
ユウさん、無意識に報復しているのがわかっっているのか。なんだか恐ろしい。
「そ、そういえばティモ君は?」
「退屈だからって、鍛冶屋の様子見に行ったり、周辺の探検してくるって」
「そう……。ところで、このお灸はあとどのくらい?」
「肩と腰は半分くらい燃えてるかな。お徳用の大きいものを買ったから、背中の筋肉やふくらはぎにも使おう」
ぎええええ! この拷問がまだ続くのか!
「なんだよ、その顔は。最終調整としてはいいチャンスだ。だからお徳用買ったのではないか。それにVRMMOなんだから実際の身体にダメージ無いのだから大げさだなあ」
いや、違う。無意識に(濡れ衣だが)浮気を相当怒っている。「二次元なら仕方ない」と言ってたくせに。自分だって推しのBLをたくさん買っているのに「浮気と推しは違う。それにこれはBLだからいろいろ違う」と言い訳するくせに。そしてここをVRMMOと信じているから容赦無いのだ。ううう、異世界転移だと何度も説明したのに。いや、ファンタジーやオカルトの類いを一切信じてないのは黄泉の国にさらわれた時に理解したじゃないか。彼女は今でもイザナミのことをブラジルマフィアの女ボスと信じているし、この世界の女神様もゲームのチュートリアル女呼ばわりしていた。もう、その辺りは諦めよう。
「あづい、あづずぎる……十万石ま……」
「おっと、リョウタ。それ以上はローカルネタでわからないと同時に商標権で運営から注意が来るぞ」
「運営に気を使う割には僕に気を使わないの?」
「だから、こうやって身体のメンテを……」
「ただいま-」
ティモ君がその時帰ってきた。
「うわ、かなりケアヒ草をやってるね。煙いし、むわっと暑いから窓を開けなよ」
そうなのか、熱さで気づかなかったがそんなに煙いということは相当のお灸なのだな。
「おう、お帰り。確かに換気忘れてたな。鍛冶屋はどうだった?」
ユウさんが窓を開けながら、ティモ君に問いかけた。
「う、うん、鍛冶屋さんは順調に仕上がってるよ。楽しみにしててって。驚かせたいというからこれ以上は内緒」
「と、いうことは最強の武器になるのか?」
僕も同じことを考えていた。女神様が言ってた最強の武器なのかな。ユウさんの目が輝いたが、ティモ君は唇に手を当てて首を振った。
「それも含めて内緒って。なんというか、今までに無い変わった……個性的なものになるみたい」
なんか言い淀んでいるというか、謎めいてるな。どういう見た目と攻撃力になるのだろ。変わったというから変な付加価値でも加わるのか?
「僕達の防具もかなり強化できるって。良かったね。リョウタさんはそのままでも大丈夫と言ってたけど、杖を見せたら確かに強化の必要は無いって」
とりあえず、二人の装備が今より強くなるなら安心だ。あとは黒幕の居場所をある程度見当付けないと。サイドの谷はまだ火山性ガスが出ていると行っていた。効率良く探すにはどうすればいいのだろう?
「さーて、そろそろ次の部位を始めるか」
「ユウさん、ホント、勘弁して」
「いーや、こうなったらとことんやらないとなあ。ククク」
ユウさん、本当に女神との対峙した記憶が無いのだろうか?
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