第45話 リョウタ、とばっちりに遭うこと決定(体には良い)

「ふあー、寝たのか寝てないのかよく分からんが、なんかやらないといけないような気がする。しっかし眠い」


 朝食の食卓にて、半分寝ぼけながら食事をしているユウさんはそうやってぼやいていたから、女神に殴りかかったのは覚えてないようだ。良かった、浮気の濡れ衣は晴れてお灸の刑は免れる。


「あー、何の夢見たか忘れたが、待機中にもぐさを仕入れてリョウタのお灸をしなければならなかったような記憶がぼんやりある」


 ……待て、なんでそこは覚えてるのだ。それにケアじゃなく刑だろと俺はツッコミ入れたい衝動をこらえつつ、なんとか回避する事にした。


「僕のケアは自分の魔法でできるよ。それより、昨日の鍛冶屋さんでも思ったけど、荷物の整理をしようよ。植物市で貰った薬草もどうせ一緒くたになっているでしょ」


「そうだなあ、確かに鍛冶屋でザックをひっくり返したらいろんなものが出てきたものな。初期の薬草とか。慌てて詰め直したし、整理してキチンと備えるか」


 ホッ。とりあえず誘導は成功したようだ。


「でも、もぐさは仕入れなくてはならないような」


 いやいやいや、なんでもぐさにこだわるの!


「ユウさん、もぐさって何?」


 ティモ君が不思議そうな顔で聞く。そりゃ、西洋風のこの国にはお灸なんてないだろう。


「東の国の薬草の名前で、乾燥させて肩や腰などに盛って火を付けるのさ」


「ええっ! 火傷しない?!」


「いや、ゆっくりと燃えてその熱が体に悪いところの血の巡りを良くして治す。うちの国に長く伝わる治療法さ」


「なんだ、ケアヒ草と同じか」


 ……待て、ティモ。何故そこで余計な事を言う。無意識にユウさんに助け舟を出すのではない。


「そっか、こっちではケアヒ草と呼ぶのか。じゃ、あとで雑貨屋で買ってきてケアするか、リョウタ」


 勘弁してくれ、さすがに本格的なもぐさは熱い。僕はぐったりしながらもとりあえず抵抗はした。


「だから魔法で治すからいいってば」


「いやいや、魔力は温存してもらいたいからな」


「魔力は寝れば治るよ! 三日も待機なら余裕じゃん!」


「お主のことだ。飲み食いしまくって胃もたれ起こすまで食べて、泥酔する。酒は眠りを浅くするから、寝不足になるパターンだ。昨夜もそうだったから、ロクに回復しないのは目に見えてる。今夜は節酒に腹八分目な」


「そ、そんな」


 誰のせいで寝不足になって疲れたのかわかって……ないよな。夢を覚えてないのだから。


「ユウさん、やっぱりリョウタさんに優しいね」


 無邪気にティモ君はにこやかに言うが違う。昨日の女神との浮気疑いの報復だ。本人は夢を覚えてないが何故か刑罰の部分だけ覚えている。しかも濡れ衣なのに。


「ざ、ザックの整理はしようね。その草も貰っているかもしれないからさ」


 僕はもはや無理と諦めた。ユウさんのお灸は本格的なのか、意図的に量を増やしているのか分からないくらいドンと盛る。当然時間はかかるし、火傷スレスレになることも多い。何回頼んでも改善しない。まあ、やられる時は僕が何かしでかした時だから加減してくれないのは当然ではある。本人は「合法的かつ健康にいい罰」というが、それってDVスレスレじゃないか? 仕方ない、もし火傷したらあとで回復魔法をかけるか。


「まあ、ここが最終調整の地なら情報も集められそうだな。午前はザックの整理、午後は聞き込み、夜にケアヒ草でお灸だな」


 心無しかユウさんがイヤな笑顔で提案してくる。本当に夢の内容を覚えていないのか?


 僕はそんな疑念を持ちながら諦めの境地に陥るのであった。


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