第37話 奥様の散財に救われる
そうして砂漠、もとい乾燥地帯を歩いているとエンカウント率が上がってきた。やはり本拠地に近いほど魔物が増えてくるものだ。
その時、巨大な蛇が鎌首をもたげて威嚇しながら現れた。
「リョウタ、あれはなんだ?」
「あれは……まずい。バジリスクだ。強毒性のモンスターで目を合わせただけでも死ぬし、返り血浴びても死ぬ。だから目を見ちゃだめ」
リョウタがやや青ざめた顔で解説する。そんなにヤバい奴なのか、ティモの方も似たような表情だ。
「確かに僕でも、あれからは盗むより逃げ回るのが精一杯だ」
「弱点はないか?」
どんなモンスターでも弱点はあるはずだが、帰ってきた答えは予想外だった。
「イタチが天敵らしいよ」
「って、連れてきてないし、そこらにもいないし、暑いから毛皮すらないぞ!」
「そんなこと言われても。砂丘に出るなんて思わないし、やはり空間が歪んでるか、気候変動進んでるよ」
リョウタも困ったように言う。
「リョウタの回復魔法で生き返るとか解毒は出来ないのか?」
「生き返りはできるけど、バジリスクの毒は強いから解毒剤でも魔法でも瀕死状態の復活だからすぐ死んじゃう。そしてぼくが殺られたらおしまいだ」
まずい、ここで倒せなくて死んだらリアルでもゲーム状態が解けて現実へ強制退去だろうか? それともどっかの映画みたいに現実でも死ぬのだろうか。
それは困る。部屋で二人死んでたら無断欠勤で二十一日で懲戒免職だ。死体が発見されれば取り消しになるだろうが、一時期でも懲戒免職なんて嫌すぎる。その前に日本もそろそろ暑くなるよな、仲良く溶けて混ざり合った腐乱死体も嫌だ。第一発見者や警察やら特殊清掃の人に迷惑かけたくない。
(ユウさんでも対策に手こずるのか、でも心無しか別のこと考えてるような)
「とりあえず、プラチナの盾で視線遮るか。それで退却を試みよう」
ラッカサドの街でやっと買い足した新品のプラチナ盾を掲げた。まだ未使用だったからピカピカだ。
その瞬間、バジリスクがドスンと倒れた。恐る恐る盾をずらすと目を見開いたまま、口から血を流して倒れてることからして死んでいるようだ。そのまま間もなく大量の金貨といくつかのアイテムへ変わった。
「え? 何もしてないぞ」
「あっ! そうか!」
ティモが思い出したように叫ぶ。
「バジリスクって自分の視線でも死ぬから、その盾が鏡代わりになって自分の顔を見てしまったんだ!」
なんとあっけない。メデューサみたいな奴だ。
「今回はユウさんの散財に救われた。鋼鉄なら新品でもこんなピカピカにならないから」
リョウタが安堵したように言う。確かに予算で揉めて鋼鉄の盾にすべきというリョウタと素材を統一したいからミスリルより硬いプラチナ製を主張し、最後に私が勝って、一通りプラチナ製の武器と防具にしたのであった。
「ふっふーん、やはりプラチナにして正解だったな。これで懲戒免職は免れる」
「チョウカイメンショク?」
「シッ、ティモ君、聞き返してはダメ。ところでいくら新品でもその盾、いやにピカピカで鏡みたいだね」
「そりゃそうさ、オプションで鏡面仕立てにして傷がつきにくい強化魔法もかけたから」
私は鼻高々に答えた。
「やはり、メデューサなどの戦いに備えて?」
ティモが尊敬の眼差しで尋ねてくる。
「いや、せっかくアクセサリーつけておしゃれしたいからいつでも鏡は持ち歩こうと思って」
「……やはりユウさんらしい答えだ。普通は小さい鏡を別に買うでしょ! って、アイリスさんから鏡や化粧品など女子力アップグッズもらってたじゃん!」
「だって大きいものも欲しかったから」
「うっ、ううっ。その手鏡もらってるならオプション付けること無いでしょうに。だから魔物を倒しても倒しても赤字なんだよ」
なぜかリョウタが泣き始めた。
「でも、強いモンスターだったから落した金貨も多いし、たぶんこのアイテムはバジリスクの毒だから高く売れるし、戦いに有利だぞ」
「また、変な散財するでしょ。決めた! お金は僕か管理するよ」
失礼な、女性なら鏡の一つや二つくらいいいじゃないか。
まあ、こんな所で揉めても仕方ない。金貨とアイテムを集めて私達は北へ再び歩き出した。
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