第38話 リョウタの気苦労
その後も僕たちは魔物を倒し、行商人から食料を買いつつ北へ向かった。お金の管理を僕が一括して正解であった。
どう見ても不要な品物をユウさんは欲しがるからだ。今更僕たちのレベルには低すぎるのに「期間限定の色だから買おう」とか「ビンテージの革の服だって!」と欲しがるからだ。
そりゃ、元の世界に持ち帰れないと釘刺して最初の無課金勢としてのケチケチストッパーを外してしまったのは僕であるが、極端なのも困りものだ。
最初から異世界と認識してくれれば悩まずに済むのに。第一、レアのとらえ方がおかしい。冒険者なら特性や攻撃力の高さや耐性のレアを選ばないとならないのに、色とかデザインまで現実世界と同じ基準で見ている。
そういえば、よく通販でも騙されていたな。いつかの黄泉の国を塞いだ水晶も魔力はともかく見た目が悪すぎて「ちくしょう、C級品をつかまされた」とぼやいていた。
そして、今、また行商人と妻と僕の攻防戦が続いている。ティモ君のタガーは何の問題無く買うことができた。本人にしかわからない使い心地もあるからだ。回避能力が上がるお守りもシーフには必要だったからそれも問題なく買った。
で、妻はまた怪しいものを欲しがっている。今までにない猫なで声で僕に迫る。
「ねえねえ、リョウタ君。レア物の刀ですって、今後の戦いに有利と思わない?」
「ラッカサドでプラチナソードにしたばかりでしょ」
「お姉さん、本当にこれはレア物だよ。名工のムラマサが打った東の国のカタナだよ。こっちでは五本の指に入る逸品だ」
……ツッコミどころ満載だ。鑑定士ではないが、異世界に村正があるわけがない。いや、僕の法衣と錫杖のこともあるから日本刀がある可能性はあるが、今持っているプラチナソードより作りが悪い。そもそもそんな名刀とやらがなんで流れの行商人が持っているのだ。
しかし、ユウさんはそんなことお構いなしで目をキラキラさせていた。
「うっわ、日本刀あったわ。しかも村正なんて」
彼女はいろいろ強いがショッピングとなると目が曇るらしい。とにかく辞めさせないと。
「おじさん、似たような刀があるけど、それは政宗かい?」
「ああ、そうさ」
「ユウさん、行こう。ティモ君の装備で充分だから」
「えー、どーして〜」
僕はユウさんの腕を掴むとズルズルと引きずるように歩き出した。今や剣士の彼女が腕力強いが、僕のメタボ体型による重力には弱いのかとりあえず引きずることはできる。
「あのさ、最初に五本の指に入る名刀と言ってるのに、後ろに別の名刀があるのって変でしょ! 流れの商人がそんなに持ってる訳ないじゃん! パチモンだよ」
「あ、そっか」
やれやれ、掴まされるところであった。
「でもなあ、そろそろ、伝説の剣だとか出てくる頃合いなのにまだ出てこないんだもん」
ユウさんはふくれっ面である。だから、ゲームじゃなくて本当の異世界だって言っても聞かない。
とはいえ、女神のサポートを受けているから普通の冒険者より有利なはずなんだが、確かにユウさんの最強の武器なり伝説の武器はまだ表れていない。
しかし、あの女神は結構丸投げするからこれも自力で探すなり作れと言われそうだ。そういう意味では僕の武器と法衣というか防具が最強のものなのに早い段階で手に入ったのは運が良かった。
……待て。確か何かのゲームであったよな。ヒロインなのに中盤の時点で最強の武器を入手して「まあ、回復系だからな」と納得してたらまさかの直後に死亡退場したゲーム。まさか、ここはまだ中盤で僕の方が死亡フラグ立っているのか?
そんな考え事をしていると冷たい湿気を帯びた風が吹いてきた。地面の草も増えてきたし、乾燥地帯を抜けていくのがわかる。かすかに硫黄の匂いがする。
「もう少しでサイドの谷だな」
「お父さん……。手がかりがあればいいけど」
「なあに、きっと生きてるさ。魔王の残党に捕まって働かされているかもしれない」
ユウさんは最もらしい理屈で励ます。
「ユウさん、モンスターの種類も変わるから……」
「ん? なんだ?」
プラチナソードを眺めていたユウさんが剣を前に掲げながら振り向いた。その拍子に横から飛び出してきたオーガを一突きにして倒した。
「い、いえ、なんでもありません」
「お? こんな所に金貨が落ちてる。ラッキー」
「リョウタさん、ユウさんは凶暴でねじ伏せるから武器はなんでも最凶、ううん、最強にしちゃうんじゃない?」
「ティモ君もそう思ったか……」
武器はなんとかなるだろう。なんとなくそう納得して僕たちは谷を目指して歩き続けた。
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