第51話 毒ガスに苦戦する

 しばらく歩いてたら、石だらけの場所に出てきた。いよいよサイドの谷の入口のようだ。わかりやすく「立ち入り禁止 ワーラウ王国軍」の立て札があそこにあるとティモが教えてくれた。


「さて、メデューサが居たのならヒュドラのアドバイス通り魔王の封印地も近いのかな。見たところ、鳥は普通に飛んでいるから今は毒ガスは出ていないな」


 私はぐるりと周りを見渡した。さっきも言ったが鳥が飛んでいるということは毒ガスは出ていない。チェックするなら今のうちだ。


「とはいえ、サイドの谷は広い。どう探すべきか」


 私の世界の尺度で言うならば山が三つ分くらいか。グランドキャニオン並なら挫折しそうだが、山三つ分ならはそこで、怪しい儀式でもしている奴を探せば良さそうだ。しかし、封印を解こうとする奴は毒ガスの影響を受けないのだろうか? 魔法使っているのか、ガスマスクでも使っているのだろうか? 魔族はガスの影響受けないのか?


 ゲームならば毒無力化アイテムやアクセサリーがあるのだろうけど、今までの雑貨屋には無かった。不親切な設計だ。それとも宝箱を見つけないといけなかったのか。


「ティモ、魔族は毒に強いのか?」


「人間よりかは強いけど、限界はあるよ」


「ふうむ、さて、なんか手がかりはないかなあ。って、うわ白骨!」


 リョウタが足下を見て驚いた。よく見るとかつての冒険者であったであろう白骨が点在している。


「とりあえず宗教違うけど、お経をあげておこう。成仏してね」


 以前なら半泣きになってただろうに、リョウタも成長したな。


「ユウさん、間違っても死体から追い剥ぎしないでね。徳が下がるよ」


 宗教にかぶせて釘を刺してきたか。見た目だけでなくお坊さんになってきている。確かに死体の装備は風化しているけど、お金くらい有効に使ってもいいじゃないかケチ。


「その顔はやはり企んでたね」


 うぐっ! 見破られている! 誤魔化さないと。


「い、いや、白骨の位置と数を確認していたのだ。やはり入口のこの辺りが多いな。遠くのは運良くそこまで行ったところでガスにやられたか、何か防御手段をしていたのか。観察して戻るのがいいのかな」


「難しいね。ってユウさん! いきなり走り出さないでよ! 危ないって!」


 とりあえず百メートルダッシュして戻ろう。一番近い遺体を観察して元の地点に戻る。入口でウロウロしているよりはマシだ。


「ぜえぜえ、やっぱ久しぶりに短距離走すると全身にくるなあ。さて、観察と」


 典型的な冒険者の格好に装備だ。マスクも何も特殊なモノはない。単に運が悪かったというパターンのようだ。さ、戻るか。


「ユウさーん! 急いでー! 鳥の姿がさっきから見当たらないよー!」


 何だと?! やはりラスボス前は難所だ。そのくせセーブポイント的なのも無い。難易度高いな、おい。私は急いでリョウタ達の元へ走り出した。


『うむ、空気の質が変わったな。お前達の言うガスが増えているな』


 ヒュドラの剣が言う。ってわかってるなら早く言え。


 オリンピック選手になれるくらいじゃないかという速さで入口まで戻った。あまり息を吸い込んではいけないが、猛ダッシュしたからさすがにすぐには息が整わない。剣士はスピードあるけど短距離向きではないのか。かと言って、シーフとはいえ子供のティモにさせるのはさすがに気が引ける。


 入口のここまで硫黄の匂いがする。つまり空間が歪んでどこかの火山性ガスが出てきたという訳だ。


「ユウさん、念のため状態異常回復の魔法かけとくね」


 青い光が私の体を包むと、息切れとは別の全身のだるさが消えた。


 リョウタの魔法で体が楽になったということは毒状態になっていたのか。これは本格的に対策を考えなくてはならない。


「この時代に活性炭はないよなあ。一応革袋は持ってきたが、そんなに長く移動できなさそうだ。って封印解こうとしている奴はなんで平気なんだ?」


「ユウさん、見える範囲からの推測だけど、遠くの死体は高い所に多い。火山ガスって窪地に溜まるらしいよ。それで遭難死した人のニュース見たことあるから。

 きっと、そいつは高台か高い所に避難用の横穴掘って解放の儀式を行っているのでは? あるいは解毒魔法使いながら儀式しているか、僕たちみたく鳥の様子みて、高い所に作った横穴に逃げ込んで入口を塞いで毒を防いでると推理してみる」


 ふむ、リョウタの言うことにも一理ある。高いところか横穴か。目視できる範囲ではそれらしきものは見当たらない。


「鳥系の魔物と縁があれば、偵察を頼むのだけど」


「ハーピーは怯えて逃げちゃったし。あ、そうだ!」


 リョウタは何かひらめいたようだった。


「この谷は山びこみたく声が響くのではないかな。試しに『ヤッホー!!』」


 山びこほどではないが谷という地形のせいか反響が強く、少し山びこ状態となった。


「ここで大声で叫び続けたら、残響で魔法の詠唱が混ざるし,何よりも気が散る。三人で思い思いに叫んだり、歌えばいいのじゃないかな。そのうち邪魔者を始末しようとして出てくるかも」


「なるほど、逆におびき出すのか。試す価値はあるな。じゃ、何を歌うかな」


(リョウタさん。はい、耳栓)


(君もわかってきたね。ヒュドラの剣は、まあ生身でないから耐えられるでしょ)


(う、噂では聞いているぞ。耳がないから精神力との勝負だな)


「じゃ、手を一回叩くのを合図に一曲歌うか好き勝手に叫ぶ。時間はとりあえず誰かが歌い終わるまで」


 リョウタが手をパンと叩いた。もちろん、こそこそ話は聞こえていたし、二人が素早く耳栓を付けたは見逃さなかった。あいつら……。

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