第50話 メデューサとの対戦が何かがおかしい・2
「そう、
「……あなたの旦那さん、本当にドMなのね」
気のせいか岩影で泣き声がする。リョウタはドMなのか? 別にムチ打ったりハイヒールでグリグリしてはいないけど。いや、Mの定義が違うのかなあ。
って、眼力に話を戻さないと。
「うちの人はおいといて、眼力が無理なら伏し目がちにするのが一番なのかね。あと、ラッカサドで貰った口紅だけど私には色が合わなくて。良ければ使う? その人が言うにはハイビスカスを利用したものらしいけど」
「え?! ラッカサド産のハイビスカス?! 頂戴! それ、いいやつなのだけど、買いに行きたくても行けないのよ! 門番が石になるから出禁になってて」
「……いろいろと苦労してるな。じゃ、これ」
私はアイリスさんから貰った口紅を渡した。彼女には悪いが、やはりファンデーション無しだと色が浮立ってしまう。まあ、どうせこのゲームのアバターグッズの一つの無料アイテムだろうしあげても良かろう。
「せっかくアイリスさんと一緒に選んだ色だったのに……」
「リョウタさん、やっぱりなんであの人の旦那さんやっているの?」
「子供には分からない深くて複雑な感情があるんだよ、ううう」
後ろがなんだかやかましい。メデューサにバレたら危ないだろうが。当の本人は口紅を前にテンション上がっている。
「うわぁ、憧れていたラッカサド産の口紅だあ! 早速付けてみよう! ね、ね、似合う? 似合う?」
えーと、人間はともかく魔物の似合うの概念がわからん。確かアイリスさんのグッズに、あったあった。
「んー、私はオシャレに疎いから似合うのかよく分からない。自分で判断してみて」
私はアイリスさんにもらった手鏡を見せた。
その瞬間、彼女は石となった。
「あ、やべ。石化させてしまった。って、そういえばこれ、鏡だった」
本来なら退治できたと喜ぶべきなのだが、彼女なりの事情や苦しみもあったのだろうなあ。破壊するのは気が引ける。
「ユウさん、出てきても大丈夫?」
リョウタたちがおずおずと出てきた。まあ、石化してるから大丈夫だろう。
「ああ、結果的に無力化に成功した。しかし、なんか哀れというかいじらしいというか、手に掛けるには気が引ける」
「ヒュドラの時と違って、一部始終聞いてたけど、彼女も女性なんだねえ。元の神話もゼウスが手を付けたからヘラにこんな姿にされたし」
「って、ヒュドラの剣に聞けばいいよ! ヒュドラさん、メデューサさんはこのままなの?」
『あー、自分の毒でやられる動物はほとんどいないだろ? 彼女も数日で戻ると思う。でも、今は無力化しているから、かつて石にされた者は戻っていると思うぞ』
「無血退治、という訳か。私も非暴力でも戦えるようになったのか。ティモ、この口紅は約束通りあげるとメモを書いて彼女に持たせてやってくれ。私は安全な場所に石像を移す」
「うん、わかった!」
「僕個人は殴りたい。でも石だから痛いか」
「まあ、そういじけるな、リョウタ。でも、有益な情報無しか」
『そうでもないぞ。ここに重臣がいるということは憂さ晴らしもあるが、見張りとしていた可能性が高い。だから本拠地は近いな』
ヒュドラの剣が言う。なるほどそれもそうか。
「って、ユウさん、片手で担いで重くない?」
「いや、別に。いつかの大木に比べればずっと軽い」
私もレベルアップしてるのだな、順調順調。これで運営の印象良くなるといいなあ。
丁度いい岩影があったので、そこに念の為寝かせておく。強風で倒れたらさすがに割れる。
「ヒュドラといい、彼女といい、人間より魔物に優しくなってない? ユウさん」
「いや、それぞれ深い事情があるのだなって。魔王やその座を狙ってたナンバー2も何かあったのかもしれないし、私達の知らない事情があるのかも」
「……ユウさん、成長したねえ」
「しかし、何かの転売屋だったらいかなる理由でも許さん」
「お、おう」
そう、事情を聞いても転売屋だけは絶対に許さん。それは変わらん。植物市の転売屋も仕留め損なったのは今でも悔しい。
「さて、ティモ。メモは飛ばないようにしておいてくれ。旅を続けよう」
そうして更に私達は北へ向かった。せめて、彼女が見つける次の相手は石化耐性防具を身に付けて、なおかつ理解ある人だといいなあ。
そうだ、ステータスを開こう。
『ユウ……凶暴であるが、一部のモンスターには情が厚い』
おっ、印象が良くなっている。
『しかし、相変わらず人間には容赦ない』
「うーん、ステータスの評価はまだまだ改善しないな」
(そりゃ、女神を一度ボコって、昨夜は未遂だけど二度目やらかしてるもんな)
「何か言ったか? リョウタ」
「い、いや別に」
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