第33話 奥様、再び白い部屋に来る

 心地よくエールを飲み、眠りに付いたらまた白い部屋の夢に付いた。また運営のアナウンスか。昼間にやって欲しいものだ。せっかくの睡眠もあのなんかきいただけでムカつく女の声の機械的なアナウンスばかりでうんざりする。


「えー、ゲーム『異世界フォルテス再生』の運営のグラジオラスと申します」


 またあの女か。姿が見えないからどっかのスピーカー越しなのだろう。殴ったのはやはり間違いだったか。VRと思ったが生身の人間だったのか。普通に傷害罪であるし、訴えられたら懲戒免職だよなあ。これはまずいな。しかし、運営はその点に触れないからやはりVRのキャラだったのだろう。


「えー、明日の植物市ですが、あるイベントが発生します」


 あるイベント?


「イベントの内容はランダムですが、手助けするとボーナスアイテムが貰えます」


 なぬ! アイテム?! ならば市の間は目を光らせないと。


「入手できるアイテムもランダムです。売り物の植物、金貨、保存食と言った一般的なアイテムから冒険に役立つアイテムも確率は低いながらも存在します。そして、イベントの回数も一回とは限りません。こなす程に報酬のレベルアップも見込めます」


 これはなかなかいい告知だ。明日の市の楽しみが増えた。よし、ガンガンイベントこなせばタダで買い物ができる!


「有益な情報ありがとう! 運営さん!」


 私は礼を言ってまた白い部屋で寝直した。ベッドに戻れればもっといいのだけどな。


「……って、また寝ちゃった。今回はお礼言っただけでもマシかしら」


 物陰からグラジオラスとリョウタが様子を伺っていた。


「グラジオラス様、あんな適当なこと言っていいのですか?」


 ゲームではない異世界なのだから、イベント告知してもその通りに起きるとは限らないことに気づいてるのはリョウタだけだ。


「植物市は毎回トラブルが起きるのよ。万引きやひったくり、売り子と客のトラブルとかね。警備員だけでは追いつかない部分があるのよ。そういうトラブルを助けりゃ、相手から何かお礼の品は来るでしょ。警備の人手が足りないのだから、ちょっとは働いて貰わないと」


「また適当なことを」


 この女神もつくづく大雑把だ。やはり妻とは近親憎悪なのかもしれない。


「まあ、ランダムと言ったから何が来ても納得するでしょ。ちなみにお勧めはドライフルーツよ。この世界では貴重だから長旅の糖分補給にはぴったりだし保存も効くし」


「なんか、妙に現実的な。異世界ファンタジーなら旅の手がかりの情報とか、魔法剣やらキーアイテムを貰えるとかが定番でしょ」


「まあ、奥さんが欲しがってるアイテムはあの宝石細工だろうけど無理ね」


「彼女の趣味はいいですから。でも否定できないな」


「いくらトラブル解消してもさすがにくれないわよ」


「う……確かに。街の宝ですものね」


「それに奥さんの見たてが正しいから、てっぺんの石が紫色のうちにサイドの谷へ急ぎなさいね」


「それがヒントなのですね」


「そうね、現時点ではこれしか言えないわ。奥さんは分かっているだろうけど確信得るまで言わないと思うし」


「もしかして、魔族の肌の色との関連が?」


 リョウタが問いかけるもグラジオラスはニヤッと笑って「ナイショ」としか言わない。


「そ、そんなぁ」


「じゃあ、他のヒントをちょっとだけ。誰が悪人か見極めること。その法衣や錫杖は最初の持ち主は異世界転移の人ってことくらいかな」


「ううっ、ますますわからない。ところで、怪我は治ったようですね。堂々と前に出てアナウンスしても良かったのでは?」


「なんだかわからないけど、出たら乱闘になるような気がして。人間相手に我ながら大人気ないけど」


「……それは正しい判断だと思います」


 神様相手でも容赦ない妻だ。きっと魔王相手でも容赦ないだろうからその点は心配していない。しかし、明日の市場で要らないトラブルを起こしそうで僕は心配になるのだった。

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