第56話 ラスボス戦、少しだけシリアス
「討伐軍を知らない? そんな、僕はお父さんを探してここまで来たのに……」
ティモがショックを受けている。確かに討伐軍と魔王キルシュヴァッサー、もといジンジーニャと戦っていた時はコニャックは投獄されていた。
ならばティモの父は魔王との戦闘で……、いや、今は目の前の敵を倒すのみ!
「さて、おしゃべりはここまでにしますか」
コニャックがさらに長い詠唱を始めた。まずい、長さからしてきっと強大な魔法だ。リョウタはさきほどからいじけているのと、全体回復をかけたばかりだ。錫杖による防御は体勢を整える時間がかかるから期待できない。
コニャックはいくら斬りかかってもびくともしない。ティモのかく乱にも動じないから引き延ばしは無理なようだ。これは相当のダメージを覚悟しないとならない。
「禁忌の魔法発動! 裁きの光をさせ!
そう叫ぶと空中に巨大な球体が現れた。二つに割れていて今にも閉じそうだ。 え?! あれはまさかの原子力事故で有名なデーモンコア?! あの二つに割った球体がくっつくと強い放射線が出て本人も周りも数日以内に死ぬあれ。
ちょっと待て。なんでゲームとはいえ、ファンタジーの世界にあんなものがあるのだ。運営会社、設定がおかしいだろ。
戸惑っている間に球体は閉じようとしている。きっとアイツは強い呪いくらいにしか思ってない。まずい、あの大きさだと私達だけではなく、この世界丸ごと汚染される、そして、蘇生できる教会も含めてこの世界が滅ぶ。私達もゲームオーバーとなりログアウトできないかもしれない。
あれを防ぐには大量の水か分厚い鉛板で遮る、または閉じないようにするしかないが、ここにはそんなものはない。しかし、高く浮いているそれに私達の距離は足りない。
「やめろ、コニャック! あんただけではなく、大事なキルシュヴァッサーも死ぬぞ」
「今はあなた達を倒すのみ」
だめだ、ファンタジーの世界に放射線の概念がないから理解してもらえない。一か八か錫杖か剣を投げて間に挟み込み、閉じられないようにするか。しかし、その後は丸腰で戦うことになる。万事休すだ。
そう思ったその時、どこからかたくさんの骨ばった手が現れ、球体を包み込み始めた。あれらは見覚えがある。
『サマヨッテイル、ワレラヲ、スクッテクレタ。コンドハ、アナタタチ、タスケル』
いつぞやのアンデットの骸骨たちだ。成仏しても骸骨なのか、は置いといて。恩義を感じて天国から駆けつけてくれたのか、いい奴らだ。そして、半透明の魔族たちも現れて球体を引き離していく。きっと討伐軍や谷で亡くなった魔族たちだ。
そして、ティモの中から彼に似た大人の魔族が現れた。
「お父さんっ!」
ティモが叫ぶ。そうか、父親はずっと彼のそばにいて守っていてくれていたのか。
『ティモ、これは術の歪みでユウさんたちの世界から来たものだ。私達が冥府まで持っていく。これは生きた人間だけの呪いだから、あそこなら呪いは無力となる』
「お、お父さん、せっかく会えたのに……ずっとそばに居てくれたのに、ぼ、僕、僕は」
半泣きになってティモは父の幽霊に叫ぶ。こんな形での再会とは胸が痛い。
『ティモ、私も討伐軍に参加したことでエルモアと二人にしてしまったことを心配していた。そしてエルモアも私のところに来た。だからティモは一人ぼっちになったと心配してそばにいたのだ。だが、お前はそこの人たちとここまで来た。これまでいろいろな人に助けてもらっただろう? 大丈夫、お前は一人じゃない』
「お父さん……。やだ! ずっと、ずっとそばに居てよ……」
『それはできない。この世界やお前のためにも、これを冥府へ運ばなくてはならない。ティモ、元気にな。そして幸せに生きるのだぞ』
そう言うとティモの父親含めた幽霊達は球体を包み込み、一瞬強い光を発して消えてしまった。あの光は生身で見たら100%死ぬチェレンコフ光ではないよな、うん。本来なら感動のシーンなのだが、原子力事故の本を読んでしまったばかりに。って、こんな設定にした運営はダメだ。後でレビューをボロクソに書いてやる。
「ユウさん、助かったみたいだね」
体勢を整え直したリョウタが安心したように言う。
「ああ、リョウタもデーモンコアを知っていたか。球体が閉じる前に彼らが冥府に持っていってくれたから間に合った。今回はリョウタがアンデットを成仏させてくれたおかげで助かった」
「やはり徳は積むものだ。それにしても、ティモ君の魔力がシーフの割に高かったのはお父さんが中に居て手助けしていたのだね。これが親の愛か……」
ティモはまだ泣いている。命の危機云々より、こんな形で父の行方を知り、永遠の別れを告げたばかりだ。無理もない。
「ティモ、辛いならしばらく防御姿勢を取れ。私が守る」
「だ、大丈夫。お父さんも励ましてくれたし、戦う!」
「成長したな、よし! 戦闘を再開だ」
「ば、バカな! 最終奥義の
コニャックは思わぬ形で封じられたことに驚きを隠せないでいる。
「さて、知らなかったとはいえ、魔族や人間どころかこの世界の生けとし生ける者を全て根絶やしにしようとした罪は重い、どうしてくれようか」
私はかつてない邪悪な笑みを浮かべて指をバキバキと鳴らした。
「ユウさん、剣士なのになんで指を鳴らすのさ」
「あ、いや、いつものクセで」
「儂ら、出番少ないのう。一応は最強の剣なのだが」
「剣もちゃ〜んと使うから安心しろ、いやあ、悪人ならどんなことをしても正当防衛だから、やりがいがあるなあ、クックック」
「いけない、ブラックユウさんが発動してしまった」
「ブラックって?! 今までのはあれでもホワイトだったの?!」
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