第48話 奥様、既婚だけど女子力に悩む

 そうして、最終戦に備えて私たちは北へ向かって歩き始めた。


「まさか、ヒュドラが剣に宿るとは思いもよらなかった」


「僕も。鱗を混ぜただけと親方は言ってたけど、どれだけ混ぜたのだろ? まあ、この錫杖に混ぜられたら前のお坊さんの法力と混ざってややこしくなってただろうから、このままで良かった」


「うーん、確かに僕は鱗は沢山拾ったよ。剥がれかけの鱗も取ったから十枚は軽く超えてたかな。ピカピカできれいだから何かアクセサリーになるかもと思ってたけど、こんなことになるとは予想しなかった」


 ティモの言葉になんとなくわかった。彼の武器には一、二枚混ぜて、残りは私の剣に入れたのだろう。生け捕りで新鮮なら確かに記憶なども宿りそうだ。もしかしたら、隠し技というか攻略サイトに載るレベルの発見かもしれない。

 なんと言っても魔王の直轄の臣下だったのだ。酒盛りの様子からしてもヒュドラは大事にされてたし、耳寄りな情報が得られるかもしれない。


「なあ、ヒュドラの剣よ。魔王について何か知らないか? 私達は彼の名前も特徴も知らないんだ」


「ユウさん、忘れたの? キルシュ……」


『うむ、魔族なのは確かだ。本名は教えて貰えなかったがジンジーニャと呼ばれてたな』


『実は巨乳が好きと聞いたな』


『あれ? 俺はバストより太もも派と聞いたけど』


『俺はうなじフェチと』


『好みは清楚系だったな。ツンデレキャラも捨てがたいと言ってたが』


「……とりあえず、ありがとう。思い出したらまた教えてくれ」


 魔王の性癖知っても闘いに有利とは思えない。って、なぜ部下が名前を知らないのにそんなことを知ってるのだ。もしかしたら、ヒュドラ達の性癖が混ざってないか? そもそもあの頭達は独立しているのか、融合しているのか訳がわからない。


 いずれにしても、どの頭がうなじフェチでも巨乳好きでも役に立たないのは変わらない。いや、待て。蛇が人間をそういう対象にするのか? ヤマタノオロチは生け贄にしたクシナダ姫はご飯用だったような。なんだか深く考えるのは辞めた方が良さそうだ。


「魔王の名前違ってない? ティモ君」


「うーん。内部でクーデター起きたのかな? でも封印されてるのはキルシュヴァッサーと聞いたよ。ジンジーニャってあだ名かな? とりあえず、どれも好みはユウさんには当てはまらないから色仕掛けで油断させて攻撃はできないね」


「て、ティモ君。余計なことは言っちゃ駄目だって。ある意味魔王より怖い人に、あの世へ飛ばされるよ」


「二人とも、全部聞こえているぞ」


「ひゃいっ!!」


 ……悪かったな、色気なくて。


 返事が二人とも噛むほど怯えさせてしまった。軽い注意のつもりだったのだが、『凶暴』のスキルがレベルアップしているのだろうか。そうなると迫力も増してメデューサ見たく睨んだら石化できるのかもしれない。


 試しにステータス開くか。


『ユウ……スキル 人間族にはかつてない凶暴さ。常にバーサーカー状態』


 これは絶対に運営の不評を買っている。いろいろとやらかしすぎて心当たりがありすぎるから原因不明だ。植物市で暴れすぎたか、リョウタのお灸が多すぎたのか。とりあえずBANされては困るから少なくともしばらくおとなしくしているか。しかし、何度も思うが普通はスキルは技能なのになんで私のは性格なんだ?


 頭の中の話題を変えよう。石化というとガーゴイルには遭ったけどメデューサには遭ってないな。防具には石化耐性が付いたとはいえ、それだけでは万全ではない。リョウタの袈裟にはそれもないし、エンカウントしたら逃げるしかない。対抗するには視線を鏡みたいな盾で跳ね返すとギリシャ神話にはあったが、ピカピカにした盾も大分傷がついてきた。リョウタはそれを見て「強化魔法かけてるのに、どう使っていたらこんなに傷だらけになるのさ」と泣いていたが。


 やはり普段から女として鏡くらい持ち歩くのがいいのか。現実でもメイクはほぼ最低限だし。あ、でも、確かアイリスさんからいろいろ……。


「ユウさん、なんか遠くから髪の毛がうねうね動くモンスターが近づいているようだよ」


 不意にリョウタがつぶやいた。


「あれ、直感だけどメデューサじゃない? 魔王の側近だったとかいうやつ」


『少年、それで正解。あやつはメデューサ。憂さ晴らしに誰か石化させたいのだろ』


 ヒュドラの剣が教えてくれた。しかし、力試しじゃなく、憂さ晴らし?


「憂さ晴らしとはどういうことだ?」


『あいつはあの髪型のせいでフラれる。いや、その前に相手が石化する』


 なるほど、モテない以前に深刻な問題だ。


「あー、また相手が石になった! ムシャクシャする」


 近づくにつれ、風貌がはっきりしてきた。確かにあの蛇の髪はメデューサそのもの。


「ティモ、リョウタ、お前らは異性だからどこかに避難しろ」


「え?! どういうこと?!」


「フラレたばかりなのだから特に異性には攻撃的だろう。私がなんとかしてみる。鎧に石化耐性あるからなんとかなるだろう」


「危険だよ! ユウさん。懲戒免職処分どころじゃないよ!」


「そうだよ! 石になったらメデューサ倒すしかないよ! まだ子どもの僕の方が安全だよ」


「いや、ショタだったら別の意味でも危険だ」


「そ、それもそうだ。ティモ君、岩陰に隠れよう」


「ショタって何?」


「説明は後で!」


 とりあえず、友好的に挨拶することにした。が、少し支度して、と。


「あの、あなたは噂のメデューサさん?」

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