#40
――地下道を進み、ウェルズ領の城を目指すメアリーとファリスの一行。
彼女たちが歩いているのは、サングィスリング帝国の者も知らない隠し通路だ。
この設備は
通路の出入り口は、可動式本棚や暖炉、隠し扉、カーペットなどによって巧妙に隠され、王族や裕福な者、犯罪者などの身を隠す事情がある人間のために造られたものでもあった。
以前に西国を治めていた王族――ウェスレグーム家の血筋だと自称するメアリーは、当然というべきかこの隠し通路の存在を知っており、ウェルズ領の攻略を任されていたガルノルフにとって、この情報はかなりの
赤の女王のリーダーとして名が通っており、さらにその特徴的な赤い髪と瞳を持った少女という容姿のせいで、メアリーはどうしても敵に見つかりやすい。
そのため先に潜入している他のメンバーや、グレイシャルとガルノルフのように商人に化けても見破られる可能性があった。
ガルノルフはその問題をこの地下通路を使ってクリアし、組織すべての人員を城内へ入れるようにしたのである。
さすがは10代前半の少年少女ばかりである赤い女王の中で、彼だけが18歳と年長者だけはあるといったところか。
元々ガルノルフの地頭が良かったのもあったのだろうが。
彼はメアリーとの出会いから得るべき知識を手に入れ、それを見事に開花させた。
本人は否定するだろうが、ガルノルフは間違いなく赤の女王の参謀や軍師といった立場にいる。
「あったぞ、メア姉。この
ファリスが城内へと入るための入り口を見つけ、一行は作戦の始まる合図をその場で待つことに。
真っ暗な地下道内で小さな灯りだけを頼りに、メアリーたちはガルノルフたちが動くのを待っている。
全員これから始まる戦いに向け、それぞれ緊張した面持ちだった。
これまでも赤の女王として多くの戦いをしてきたが、城を落とすとなると話が違ってくる。
赤の女王はあくまで裏社会から民たちを救ってきた組織だ。
ここ数年の活動もあって、サングィスリング帝国からも目を付けられてはいたが、表立って帝国と敵対してきたわけではない。
それがついに
敵はヴェリアス大陸すべてを支配している。
そんな大きな相手と敵対するのだから、これまで以上に命の危険は増すだろう。
だがそれでも赤の女王のメンバーはメアリーを信じ、彼女と共に戦うことを選んだ。
自らの血を流して民を守り、帝国の圧政から西国を取り戻す決断をしたのだ。
まだまだ幼さの残る彼ら彼女らだが、その覚悟は鉄より――いや、アダマント鉱物よりも固い。
「じゃあ、最後に確認しておきましょう」
「ああ、中に入ったらオニキースのいる領主の間を目指すんだろ」
メアリーの提案で、作戦の最終確認を始める赤の女王のメンバーたち。
ガルノルフが調べた城の内部はすでに皆の頭の中に入っているため、少ない言葉を聞いただけで
作戦内容はこうだ。
まず先に城内に侵入、または潜伏しているメンバーが騒ぎを起こし、それに
現在サングィスリング帝国が大陸の中央部にある都に、将兵を呼び出したため、今のウェルズ領にある城は手薄の状態だ。
兵の数こそ五分といったところだが、十分に勝機はある。
「メア姉のほうは大丈夫なのか? あたしがみんなを
ファリスが心配そうに、
この作戦に問題があるとすれば、それはメアリーが作戦前に重傷を負ったことだ。
まさかあの生きる伝説と呼ばれる戦士――アドウェルザーと
これは誰のミスでもない。
ただ運がなかったというだけだ。
「大丈夫よ。それにそれを心配してガルノルフがあなたをわたしにつけてくれたんでしょ。問題ないって」
「あたしが言いたいのはそのことじゃなくて……。あいつ、グレイシャルのこと気にしてんのかなって――」
ファリスが言葉を言い切る前に、彼女たちがいる地下通路に衝撃が走った。
それは上から聞こえてきていて、先に城内に入っていた赤の女王のメンバーたちが動き出したことを意味していた。
一行の表情が強張ると、メアリーは皆に向かって口を開く。
「さあ合図よ、みんな。作戦が終わったらこの城でパーティーをしましょう。欠席なんて許さないからね。絶対に生き残って」
彼女の言葉に皆が拳を強く握り込み、静かに応えていた。
それからメアリーを先頭に、先ほどファリスが見つけた城内へと入る出入り口へと歩を進める。
なぜだか突っ立っていたファリスは、慌ててメアリーたちを追いかけると、彼ら彼女らに向かって声を張り上げた。
「おい待てってお前らッ!? メア姉もさっき前衛はあたしがいくって言っただろう!」
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