#17

その声はプレート·アーマーの男のものだった。


ドワーフの青年は顔を歪ませながらも、背負っていたウォーハンマーを手に取るとそれをグレイシャルに突きつけて言う。


「こっちは急いでんだ! 退かねぇなら痛い目に遭わすぞ!」


脅してきたドワーフの青年。


プレート·アーマーの男の指示があったせいか、青年にも余裕がないように見えた。


それはグレイシャルも同じで、彼はしどろもどろになりながら突きつけられたウォーハンマーを見ながら考える。


メアリーのためにもこの一団を町の外に出すわけにはいかない。


ならばやることは一つ。


だがこっちがひとりに対して相手は集団だ。


一対一なら止められる自信はあるが、戦っている間に逃げられてしまう可能性がある。


正直いって馬車が全力で走り出してしまったら追いつけないし、ドワーフの集団がどれだけ強いのかもわからずどうにかできる確信が持てない。


「で、でも……やらなきゃだよね……」


「さっきからなに気持ちのわりぃ顔でブツブツ言ってんだよ!? いいからさっさと退けやコラ!」


「ごめんなさい。先に謝っておきます……」


「あん? なにを言って――ッ!?」


グレイシャルがボソッと呟くように答えた瞬間だった。


彼は馬車へと駆け出して行き、車輪に向かって拳を振り上げる。


ドワーフの青年は素手で何をするつもりだと驚愕して動けずにいると、次にはもう町中に凄まじい破壊音が響き渡っていた。


「一撃で車輪を……? テメェ、一体なにもんだッ!?」


ドワーフの青年が叫び、周囲にいた小馬に乗っていた彼の仲間は両目を見開いて固まっていた。


それは、グレイシャルが魔力を拳に込めて馬車の車輪を思いっきり殴りつけて吹き飛ばし、馬車を横転させたからだった。


その衝撃で荷台を引いていた馬が怯えて走り去って行き、馬車は横に倒れた状態となった。


倒れた衝撃で歪んだほろからプレート·アーマーの男が出てくると、男は怒気のこもった声で指示を出す。


「そいつを殺せ。今すぐだ」


プレート·アーマーの男の言葉に、ドワーフの集団の誰もが苦い顔をしていたが、彼らはそれぞれ武器を取ってグレイシャルへと襲いかかった。


まずは彼の側にいた三人ドワーフの子どもが小ぶりの棍棒を握って、小馬にまたがった状態で殴りかかってくる。


だがグレイシャルは、三人の攻撃を難なくかわす。


そして、彼はドワーフの子どもらが乗っていた小馬の顔を軽く叩いて驚かし、慌てた馬上から彼らを転倒させることに成功した。


「あれ? この子たち……慣れてないのかな?」


グレイシャルは、すぐに彼らの戦闘経験が浅いことに気が付いた。


それは馬上からの攻撃がお粗末だっただけではなく、そもそも集団の利点を活かした戦い方をドワーフの子どもたちがして来なかったのもあった。


普通、敵が自分よりも数が少ない場合なら、周囲を囲んで攻撃を仕掛けるのが定石じょうせきだ。


しかしドワーフの子どもらは、一人ひとりがただ闇雲に向かってきたのだ。


さらには驚いた小馬の制御もできずにいるところを見るに、どう考えても荒事に慣れている感じはしない。


そのことに違和感を覚えていたグレイシャルだったが、先ほど彼と話していた顎髭あごひげを生やしたドワーフの青年が向かってきていた。


ドワーフの青年はグレイシャルの近くまで来ると、小馬から飛び降りてウォーハンマーを構える。


「おい、今すぐ逃げろ……」


「えッ? オレが逃げて大丈夫なんですか? あの鎧の人に怒られるんじゃ?」


「襲ってきたくせに他人の心配かよ……。変わってんな、お前。いいからさっさとこの場を離れろ。おいお前らは手を出すなよ! こいつは俺がやる!」


グレイシャルはドワーフの青年が言っている意味が分からなかった。


口では逃げろと言っているが、彼は自分が相手にすると仲間たちに向かって叫んでいる。


戦いたいのか戦いたくないのか、グレイシャルにはドワーフの青年の考えが理解できない。


「よくわからないんですけど……こっちにもやらなきゃいけないことがあって、逃げるわけにはいかないんですよ」


「くッ!? 馬車の中に家族でもいんのか。……仕方ねぇ。勘弁しろよ、俺たちにも事情があんだ」


そう言ったドワーフの青年は、ウォーハンマーを振り上げてグレイシャルへと振り落とした。


その一撃でグレイシャルはすぐに理解した。


ドワーフの青年は、先ほどの子どもらとは違って明らかに戦い慣れていて、実際にウォーハンマーを避けたグレイシャルの間合いを読んで次の攻撃に移っている。


鎚状つちじょう柄頭つかがしらがグレイシャルの頭や腕、足、胴体を潰そうと連続で振られる。


ドワーフの青年は小柄ながらその筋骨隆々の全身を駆使して、凄まじい打撃の嵐を繰り出していた。


本来ならばウォーハンマーはこのように連続して振っていられるような武器ではないが、そこはさすがドワーフ族といったところか。


これはいつまでも躱してられないと思ったグレイシャルは、避けるのを止めて、振り抜かれたウォーハンマーに向かって飛び出す。


「うおぉぉぉッ!」


「なに!? こ、こいつッ!?」

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