#16
急に移動し始めた人攫いだと思われる一団を見て、グレイシャルは激しく動揺した。
そもそも彼はメアリーとファリスと合流して、彼女たちの仕事を手伝うつもりでこの町へと来たのだ。
それが二人が町に来るまでの間それらしい一団を見張ってるだけだったのが、移動されるとなると一体どうすればよいのか。
偶然、聞いていたドワーフの集団を見つけたまではよかったが、相手が人攫いだとわからない状況では飛びかかるわけにもいかない。
「でも、明らかなんだよなぁ……。この町に人攫いがいるって話で、ドワーフの集団なんてそうはいないだろうし……」
建物の陰から彼らをチラリと見たグレイシャルは、頭を抱えながら考える。
しかしそんな時間を与えられるはずもなく、人攫いだと思われる一団は彼の視界から消えていった。
見失ったら不味い。
そう思ったグレイシャルは、ともかく一団を追いかけた。
まだ確定はしていないが、どう見ても怪しい連中をここで見逃すわけにはいかない。
せめて跡をつけるくらいのことはしないと――と、見えなくなった一団を尾行する。
だがフルプレート·アーマーの男はすでに馬車の荷台に乗り込りこんでおり、ドワーフたちはその体型にあった小馬にそれぞれ
これは不味い。
非常に不味い。
馬に乗られてはさすがに追いつけない。
魔導兵士だったグレイシャルは、戦うためだけに育てられてたのもあって体力には自信はあったが、いくら小馬とはいえ走って尾行するなど不可能だ。
さらに町を出られたらもう二度と見つからないだろう。
そうなった後にメアリーとファリスと合流したとき、彼女たちになんと言えばいいのか。
二人に手を貸そうと思ってカッコよく現れるはずが、明らかに怪しい一団を見て何もしなかったなんて言ったら確実に呆れられてしまう。
むしろファリスなんて怒鳴り散らしてきそうだ。
メアリーはそんなことで嫌ったりはしなさそうだが、落胆するのは目に見えている。
「それに、なによりもあの馬車に攫われた人たちがいたら!」
グレイシャルが一番心配していたのは、攫われた者たちがそのまま馬車で運ばれて奴隷市場に流されることだった。
確認こそしていないが、馬車の荷台に攫われた者たちが積まれている可能性は十分にある。
もしそうだとすると証拠もなくなってしまうし、やはりここは多少強引でも一団を引き留めるべきだと、彼は馬車の前に飛び出した。
「あのッ! ちょっと待ってくださいッ!」
突然飛び出してきた人族の少年を見て、馬車の手綱を引いていたドワーフの子どもが慌てて止める。
それに
「危ねぇな! いきなり飛び出してくんじゃねぇよ! 死にてぇのかッ!?」
ドワーフの集団のリーダーだろうか。
先ほどプレート·アーマーの男と話していたドワーフの青年が、グレイシャルに退くように声をかけてきた。
その青年は他のドワーフと比べて筋骨隆々でいて(もちろん背は低く仲間と同じくらいだが)、背中には自分の背丈を超えるウォーハンマーが見える。
さらには
グレイシャルは前に出てきたドワーフの青年に向かって、いつもの引きつった笑みを向け、なんとか引き留めようとする。
「いや、あ、あのですねぇ……。その……なんていうか……少し訊きたいことがあるというか……町から出ていってほしくないっていうか……」
「あん? なにを言ってやがんだ、テメェは? 用があんならさっさと言えよ。気持ちわりぃ顔しやがって」
頑張って笑顔を向けているのに酷い。
グレイシャルは内心でそう呟くと、どうすれば彼らを動かないようにできるかを考える。
周りにいた歩行者たちも自分たちのことを見ている。
きっとさっき大声を出して馬車を止めたのと、今目の前にいるドワーフの青年も叫ぶように怒鳴ったからだ。
こんな小さな町だ。
もしメアリーたちがいれば、騒ぎを聞きつけてこの場に来てくれるかも……。
そう考えたグレイシャルは、少しでも時間を稼ごう――このまま会話を続けようと、気持ち悪いと言われた笑顔を青年に向け続けた。
本来ならば知らない人間と話すのが苦手な彼ではあったが、メアリーの役に立つんだと必死になって口を開く。
「ず、ずっとドワーフ族のことをよく知りたくて……そしたら運よくあなたたちがいたからさ。よかったらいろいろ教えてもらえないかなって……思って……」
「頭大丈夫か、お前? いきなりなに言ってんだ?」
「い、いや~……」
なんとか捻り出した言葉は、ドワーフの青年を不可解にさせた。
これ以上どうすればいいかわからないグレイシャルが戸惑っていると、馬車から低い声が聞こえてくる。
「おい、いつまで止まってんだよ! 変なのが邪魔なら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます