#6
自らを王族の血筋だといった少女メアリー。
正直な話、グレイシャルは
それどころか物心つく前から魔導兵士として育てられていたのもあって、彼は文字の読み書きもできない。
だからいきなり
それでも王族だと名乗っているのだからきっと偉い人なのだろうと思ったグレイシャルは、ヘラヘラ笑っていた顔をさらににこやかにしようと努めた。
「呼ぶときはメアリーでいいわよ、グレイシャル」
「は、はぁ……そ、そうですか……」
「じゃあ、次はあなたの番ね。わたしに訊きたいことがあるなら、話せることならなんでも答えてあげる」
グレイシャルはメアリーの言葉を聞き、さらに混乱していた。
この赤髪の少女は、友好的な尋問の次は、なんと聞きたいことを教えてくれると言いだしたのだ。
そしてメアリーの話を聞いているうちに――。
彼女は自分のことを、サングィスリング帝国へ引き渡すことはないと思うようになっていた。
もしかしたら油断させる作戦かとも考えたが、それにしては回りくどい。
いくら魔導兵士を警戒してのことにしても、メアリーは明らかにやり過ぎだとグレイシャルは考え、思い切って彼女に訊ねることにする。
「え、えーと、じゃあ最初に……」
「うんうん、なんでも訊いて」
グレイシャルが初めに訊いたことは、メアリーがリーダーを務める“赤の女王”についてだった。
彼女がいうに“赤の女王”とは、困っている者たちを助ける活動をしている組織らしい。
これまでも西国のどこかで悪さをする
一応、現在の西国を治めているサングィスリング帝国とは、あからさまに敵対しているわけではないが。
メアリーの立場的に、いずれは国を取り戻すつもりでいると言う。
「今はこんなだけど、わたしはウェスレグーム家、王族の血を引く人間だからね。いつかは親類を皆殺しにされた仇は討ちたいところよ」
「えッ!? 帝国って西国の偉い人たちを殺して国を奪ったの!?」
「うん、そうだよ。質問してたときから気付いていたけど。あなたってやっぱり世間知らずなのね」
驚きを隠せないグレイシャルに、メアリーはあっけらかんと答えた。
グレイシャルが驚くのも無理はなかった。
なぜならば彼が知っている話では、サングィスリング帝国が西国を治めている理由は、2年前に起こった“水蛇災害”への対策のためだったからだ。
それがまさか統治していた王族を皆殺しにしていたとは、思ってもみなかったのだ。
グレイシャルはまだまだ自分が知らないことがあると思い、愛想笑いをするのも忘れて、メアリーに質問を続けた。
帝国は逃亡した魔導兵士たちを探しているのか?
どうして前は買えていたパンが同じ値段で手に入らないのかなど、世の中のことから常識的なことまで様々なことを訊いた。
当然メアリーにもわからないことはあり、質問のすべてに答えられたわけではなかったが。
グレイシャルにとっては、それでも十分彼が知りたかったことを知ることができた。
「あなたって意外とお喋りなのね。もっと無口な子かと思ってたけど」
「えッ? オレ、そんなに喋ってた? ご、ごめん……」
「別に謝ることないわよ。そもそもわたしがなんでも訊いてって言ったんだし」
グレイシャルはさすがに喋り過ぎたと反省し、すぐにいつもの引きつった笑みを作る。
まるでハリネズミが危機を察して体の針を立てるように、ぎこちない愛想笑いをする。
そんな彼を見つめていたメアリーは、いたずらっぽく笑っていた。
そのときの彼女の顔を見たグレイシャルは、年相応の無邪気な笑みだと思い見惚れ、せっかく作った愛想笑いが崩れてしまっていた。
「まだあるなら答えてあげるけど、どうする?」
「えッ! あ、あぁ……」
声をかけられ、思わずドキッとしてしまったグレイシャル。
彼は慌ててメアリーから目をそらすと、地面を見ながら言う。
「じゃあ、最後に一つ……」
「なんか最後の一つってのが意味深ね。それで、最後に何が訊きたいの?」
「あ、あんたらがオレをここへ連れてきた理由なんだけど……。どうしてかなって……思って……」
身を乗り出してきたメアリーの驚き、歯切れ悪く訊ねたグレイシャル。
メアリーはそんな彼のことなど気にせずに、座っていた椅子から立ち上がった。
彼女はいちいち動きが大きいので、グレイシャルは不意打ちかと思って、なんだかんだいってずっと気が休まらない。
あと何よりもまず彼が異性に免疫がないのが大きかったのだが、グレイシャル本人にその自覚はなかった。
「そんなの決まってるじゃない」
「えッ? 決まってるって?」
そんな議論の余地もない明白な理由なのかと、グレイシャルは間髪を入れずに答えたメアリーに驚き、彼女の言葉をオウム返ししてしまう。
メアリーは、そんな驚いて仰け反っているグレイシャルを見つめ、顔を近づけて答えた。
「あなたがわたしの旦那に相応しいかを知るためよ」
想像の遥か上をいっていた理由を聞いたグレイシャルは、その場でカチコチに固まり、思考を放棄していた。
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