#13
――木々の隙間から差し込む陽の光を浴びながら、丸太小屋にやってきたリスなどを追いかける子どもたち。
昨夜は久しぶりにメアリーも小屋に泊まり、皆で楽しんだ夜のパーティーの次の日でも子どもたちは元気に遊んでいる。
本来なら午前中は丸太小屋で勉強をしているのだが、パーティーで飲みすぎたルヴァーナが二日酔いのため、今日は自由時間となっていた。
ベットで呻くルヴァーナの面倒を見ているのはメアリーで、グレイシャルは子どもたちと一緒に外にいる。
「ねえ、グレイシャル。あの子のこと氷で作れる?」
魔族の少女がグレイシャルにそう言うと、他の子たちも集まってきていた。
少女が言っているあの子とは、先ほど皆で追いかけていたリスのことだ。
グレイシャルは離れていた木に
すると次第に
それを見た子どもたちは両目を大きくして驚き、グレイシャルの両手から現れたリスの氷像を取り合ってはしゃぎだしていた。
「もう造形魔術も完璧ね」
そこへメアリーがやってきた。
彼女の手には子どもたちとグレイシャルの分のカップが載ったトレイが持たれており、それをテーブルへと置くと椅子に腰を下ろす。
それからメアリーは、グレイシャルを見ると、手で自分の隣の椅子を何度も叩いていた。
横に座るように
「で、でも、まだ大きなものは作れないよ」
「それでも凄いわよ。あたしは魔力のコントロールはすぐにできたけど、造形魔術を覚えるのはかなり手こずったもん」
いつもと変わらないメアリー。
彼女は今日もグレイシャルの良いところを褒める。
一方でグレイシャルのほうは、メアリーのほうを向くことができず、下を見ながら話をしていた。
昨夜からずっとこんな感じだ。
どうもルヴァーナに造形魔術を教えてもらったときにあった出来事のせいか。
あれ以来メアリーのことを変に意識してしまっている。
グレイシャルは「そうかな」と照れながら言って考える。
メアリーや彼女がリーダーをやっている組織――“赤の女王”や、ファリスとルヴァーナとの関係のことを。
(たしか
グレイシャルがルヴァーナから詳しく聞いた話では、メアリーは西国の治安を裏から守っているらしかった。
まだ幼さが残る12歳の少女が、どうしてそんな大それたことをしているのか?
いやそれ以前に、裏社会に通じているということは、盗賊団や傭兵団などの中でもかなり
言われてみれば、たまに見せる彼女の鋭い目や魔術が使えるというだけでやれなくもないとも思えるが。
それにしても自分と同い年の女の子が、そんな世界で生きていることに、グレイシャルは驚きを隠せなかった。
きっとメアリーが、西国の王家の血筋だということが関係しているからだとは考えられる。
だがそれにしても、なんの後ろ盾もない彼女が危険な世界で生きていることに、グレイシャルは疑問以上に恐怖を感じていた。
できればメアリーには危ない目に遭ってほしくはない――。
それがグレイシャルの想いだった。
とはいっても彼も魔導兵士だった少年だ。
生い立ちや素性ならメアリーにも負けないくらい特殊ではある。
グレイシャルはそんな自分の境遇が理由で、メアリーが旦那にすると言っているのかと思っていたが。
今でも彼に一緒に戦ってほしいとは言ってこない。
「おーい、メア姉ッ!」
グレイシャルとメアリーが並んで座っていると、そこへ狼系獣人のファリスがやってきた。
彼女は馬に乗っていて、子どもたちに離れるように言いながら二人の前で止まり、
グレイシャルからすると、なにやら彼女がずいぶんと慌てているように見えていた。
「人攫いが誰かわかったよ。ドワーフの連中だ」
やってきた途端に穏やかじゃない話を始めたファリスに、メアリーの表情が厳しいものに変わった。
普段のにこやかな彼女がたまに見せる鋭い目つきだ。
「なんでドワーフが……まあいいわ、詳しいことを聞かせて。そうね……ルヴァーナにも聞いてもらいたいからとりあえず中に入りましょう」
メアリーは椅子から立ち上がると、ファリスと共にルヴァーナのいる丸太小屋へと入っていった。
彼女は中へ入る前に、グレイシャルに紅茶が冷める前に子どもたちと一緒に飲むように言った。
グレイシャルは言われたまま子どもたちに声をかけ、テーブルについた皆と紅茶を飲む。
「ねえ、グレイシャル。ファリスはメアリーになんて言ってたの?」
「なんか急いでそうだったよね」
人族とエルフ族の少年少女二人が、先ほどファリスを見て気になったのか訊ねてきた。
訊ねられたグレイシャルは、本当のことを言っていいのか迷ったが、結局ファリスがメアリーに話した内容は伝えなかった。
それは人攫いという明らかに危険な話を、彼ら彼女らに話すことに
なによりも詳しい内容はグレイシャルも聞いてはいない。
彼は危ない話でなければいいがと思いながら、訊ねられたことを誤魔化していたが――。
「あれ? メアリー、いっちゃうの?」
丸太小屋から出てきたメアリーは、小屋の裏に繋いでいた馬を引いて、その背に乗ろうとしていた。
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