#24

メアリーがファリスやガルノルフまで連れて丸太小屋へ来た理由――。


それは西国せいこく内にある領を奪うため、ルヴァーナにその話を伝えるためだった。


その領の名はウェルズ。


中央から離れた山岳地帯にある地域で、現在はサングィスリング帝国の幹部オニキースの管轄にある。


2年前の人攫い事件の首謀者だったファーソルから情報を得て、メアリーたち“赤の女王”はこれまでずっと領を手に入れるために動いていたようだ。


武器も物資も食品も確保し、さらにはガルノルフが調べた話によると――。


ウェルズ領は西国の端にあるとはいえ魔物からヴェリアス大陸を守る拠点になっているようで、普段は駐在している将や兵の数が多いらしいが。


なんでもサングィスリング帝国が中央で会議をするらしく、四つの国から多くの幹部を呼び戻しているようだ。


ガルノルフからその話を聞いたメアリーは、これは絶好の機会だと、ついに裏社会から飛び出して表舞台に乗り込む覚悟を決めた。


すでに“赤の女王”メンバー全員に、そのことは伝えてある。


ただメアリーにも気になることはあった。


それはルヴァーナがこの話を聞いてどう思うかだ。


戦う準備はもう完璧な状態で、仲間の士気も高い。


さらに狙っているところは兵力が落ちている。


これ以上ない条件で攻め込める。


だが約400年は生きているルヴァーナから見て、この好機を活かすべきか否かを教えてほしく、メアリーはファリスとガルノルフを連れて丸太小屋へやって来たのだった。


「わたし……ここでやらなきゃ数年以上はチャンスがないと思ってるの」


品物をしまい終え、椅子に座っているルヴァーナに近づいて言うメアリー。


そのときの彼女は睨むような鋭い目になっていて、まるで別人のような顔つきになっていた。


グレイシャルはメアリーのこの表情を何度か見ているが、やはり似合わないなと思ってしまう。


彼女に似合うのはやはり笑顔だと、場の空気に合わないことで一人納得していた。


「お前や仲間たちが全員やる気ならいいんじゃないか? わしもまたとない機会だと思う」


メアリーに相談されたルヴァーナは、いつものように酒瓶を片手にグイッと一口飲むと、彼女に向かって話の感想を述べた。


そんなルヴァーナを見たグレイシャルは、ずいぶんと軽く言うなと呆れてしまう。


わざわざメアリーがファリスとガルノルフまで連れて相談に来たのに、このエルフ族の先生は真剣味の欠片もない態度だ。


だがグレイシャルとは違ってメアリーのほうは笑顔になり、ルヴァーナに飛びついていた。


「やった! ルヴァーナなら絶対にそう言ってくれると思ってたわ!」


「わしの答えをわかっているのに相談しに来たな。ったく、相変わらず食えん娘じゃのう、お前は」


「えへへ」


こうして見てみると、まるで母と子だなとグレイシャルは思った。


メアリーはルヴァーナを自分の嫁だと言っているが、彼女たちは外見的にも精神的にも親子にしか見えない。


しかしそれもまた夫婦の、いや家族の形かと、グレイシャルはまた一人で納得していた。


ルヴァーナの答えを聞き、ファリスとガルノルフが右手を上げて叩き合っている。


彼女たちもまたルヴァーナが賛成してくれたことで、やる気を増しているようだった。


そんな雰囲気の中、ルヴァーナが皆に向かって口を開く。


「それでわしから一つ提案があるんじゃが」


「なにルヴァーナ? 何か良い策でもあるなら有難いけど?」


メアリーが訊ねると、ルヴァーナが答える前にグレイシャルが前へと出てくる。


「ルヴァーナさん、それはオレから言わせてください」


「おッ? どうやら野暮やぼじゃったようじゃな。すまんすまん」


二人のやり取りに小首を傾げるメアリー。


それはファリスとガルノルフも同じで、彼女たちも不可解そうにまゆを下げていた。


グレイシャルは、皆に自分の顔が見えるように振り返った。


何を言うつもりだろうとメアリーとガルノルフが思う中、ファリスだけは何かに気が付いたようで、彼女は苦虫をみ潰したような顔になっていた。


「俺もみんなと行きたい。そのウェルズってところへ」


グレイシャルの言葉を聞き、メアリーは身を乗り出し、ガルノルフは開いた口が塞がらなくなっていた。


何を言うか気が付いていたのであろうファリスは、やっぱりとでも言いたそうにガクッと肩を落としている。


そして、それぞれの反応を見たルヴァーナは、実に美味そうに酒瓶から勢いよくワインを飲み干していた。


その様子からするに、皆の態度が予想通りだったのか、またはハッキリと自分の言いたいことを口にしたグレイシャルを誇らしく思っていそうだ。


「グレイシャルが来てくれるのは嬉しいけど、今回は本当に危ない仕事よ。最悪、みんな死んじゃうかもしれない」


「なら尚更なおさらだよ。オレはメアリーやファリスほど強くはないし、ガルノルフさんみたいに器用じゃないけど。でも、それでも役に立てることはあると思うんだ」


メアリーはその言葉を聞くと満面の笑みを浮かべた。


ガルノルフも腕を組んでコクコクと満足そうにうなづいている。


だが、やはりファリスだけは気に入らないようで、彼女は「ケッ!」と鼻を鳴らしていた。


「よくぞ言った、グレイシャル! 今日はお祝いじゃ! 今すぐ外の子らを全員呼び出して、酒と料理の用意を始めるぞ!」


何か感じるものがあったのか。


ルヴァーナがいきなり椅子から立ち上がり、これからパーティーをすると声を張り上げた。

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