#18
なんとグレイシャルは、振り落とされたウォーハンマーに向かって拳を突き上げていた。
だが魔力を纏った拳はウォーハンマーの柄頭を砕き、衝突した衝撃でドワーフの青年が吹き飛んでいく。
「ぐわぁぁぁッ!?」
「ガルノルフ!?」
「ヤダッ! ガルノルフがッ!?」
ドワーフの青年が吹き飛んでいくと、周囲にいたドワーフの子どもらが彼の名を叫んでいた。
まさかやられるとは思ってなかったのだろうその悲痛の叫びに、グレイシャルも思わず手が止まってしまう。
人攫いなんてするような連中は、仲間のことなど大事しない――そう思っていたからだ。
だがドワーフの子どもらは泣きそうな顔で震えており、グレイシャルは先ほどから覚えていた違和感をより一層深めていると――。
「戦いの最中に考えるな」
突然、聞こえてきた声と同時に、左の肩口に凄まじい衝撃が走って吹き飛ばされてしまった。
グレイシャルはそのまま建物に叩きつけられ、口から血反吐を吐き出す。
顔を上げるとそこには、フルプレート·アーマーの男が立っていた。
男はバトルアックスを手に、グレイシャルを見下ろして口を開く。
「今のでまだ息があるか。話には聞いていたが、さすが魔導兵士といったところだな」
「ファ、ファーソル……」
先ほどウォーハンマーをグレイシャルに砕かれたドワーフの青年――ガルノルフがフルプレート·アーマーの男の名を漏らす。
ファーソルと呼ばれたフルプレート·アーマーの男はフンッと鼻を鳴らすと、傍にいたドワーフの子どもらを蹴り飛ばし始めた。
「使えんガキどもが。ほら、いつまでボケッとしているつもりだ。さっさと代わりの馬車を探してこい。あれはもう使いもんにならん」
ファーソルは泣きそうになっているドワーフの子どもらに乱暴している。
まるで道端の石ころでも蹴り飛ばすように雑に扱っている。
その光景を見ていたグレイシャルは、ゆっくりと立ち上がると、ファーソルに向かって口を開いた。
「その子たちは、あなたの仲間じゃないんですか……?」
「仲間だと? ふざけるな。こいつらは替えのきく
ファーソルはバトルアックスを構え、ゆっくりと歩を進めた。
戦斧の分厚い刃が陽の光に照らされ、グレイシャルの視界を
そして次の瞬間には、バトルアックスがグレイシャルの胴体を切り裂いていた。
「うわぁぁぁッ!」
再び吹き飛ばされていくグレイシャル。
今度は彼の身体を止める壁はなく、
そんなグレイシャルを眺めながら、最初こそ口角を上げていたファーソルの顔が、急に不可解そうなものに変わっていった。
「今の喰らってまだ体が繋がっているとはな。魔導兵士は魔力で全身を覆っていると聞いていたが、どうやら考えていたよりも強力なもののようだ」
「ま、魔導兵士のことを知っているんですか……? じゃあ、あなたは帝国の人? ぐッ!?」
地面に倒れながら訊ねるグレイシャルにファーソルは何も答えず、彼の頭を踏みつけた。
「はて、なんのことかな? 俺はしがない闇の世界の人間。依頼されたことをこなしているだけだ。魔導兵士やらサングィスリング帝国などとは関わり合いなどない」
「だ、だって今自分で言ったじゃな――ッ!?」
ファーソルはさらに足に力を込め、グレイシャルの顔面が地面にめり込むほど圧迫した。
それでも彼は両手両足と背筋に魔力を集めて強引に起き上がり、ファーソルを押し返して立ち上がる。
そして再び向き合ったとき、今度はグレイシャルのほうから殴りかかった。
大人であるファーソルとは身長差があるためか、咄嗟に繰り出した拳は敵の胴体に突き刺さる。
だがファーソルにはビクともしなかった。
ただ町中に鎧の金属音が鳴り響いただけで、何事もなかったかのように立っている。
「効かないのか……? クソッ!」
グレイシャルは何度もファーソルの体を殴りつけた。
一撃一撃に魔力を込め、渾身の力を込めて連打する。
「無駄だ、この鎧はアダマント製。いくら魔導兵士の攻撃でも破壊はできん」
ファーソルが勝ち誇ったように言いながら、バトルアックスを振り落とした。
対するグレイシャルは、まるで狙っていたとばかりに振り落とされた戦斧に向かって拳を突き上げる。
先ほどドワーフの青年――ガルノルフのウォーハンマーを破壊したときと同じように、ファーソルの武器を砕こうとした。
周囲にまたも凄まじい金属音が響く。
しかし、結果は先ほどと同じにはならなかった。
その理由は――。
「残念だが、この斧もアダマント製だ」
ファーソルの身に付けているフルプレート·アーマーと同じ金属で造られたものだったため、破壊することはできなかった。
アダマントとは――。
加工するのには特別な技術が必要で、さらには希少価値も高い高級品でもある。
以前は北国によってそれぞれの国に輸出されていたが、水蛇災害が起きて以降はすべてサングィスリング帝国が独占している。
その硬度は非常に強固であり、かなり強力な魔法や魔力の高い攻撃、または物理的ダメージを蓄積させ続けないと破壊できないと言われている。
「しかし不幸中の幸いだったな。まさか魔導兵士が自分からやって来るとは。これで俺の立場も安泰になる」
魔力を纏った攻撃が効かないとわかると、グレイシャルは怯えてしまっていた。
唯一自分が他人よりも
それはまだ12歳の子どもであるグレイシャルにとって、絶望以外のなにものでもなかった。
立ち尽くしているグレイシャルを見たファーソルは、その口角を上げると声を張り上げる。
「おい、ドワーフども! さっさと替えの馬車を持ってこい! 俺はその間に、このガキを縛っておく」
ファーソルがドワーフの集団に指示を出し、グレイシャルへと手を伸ばしてくる。
それでもグレイシャルは、ただその身を震わせることしかできないでいた。
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