#43
不敵な笑みを浮かべたオニキースは、槍を振ってグレイシャルを押し返す。
体格差があるせいか、グレイシャルは激しく後退させられた。
だが視線だけはそらさず、目の前に立つ敵に向け続けている。
いきり立つグレイシャルを見たオニキースは、静かに槍を構え直す。
「今の一瞬でわかった。やはり魔導兵士の攻撃など、それに対応できる武具があればどうということはない」
「散々オレたちを戦わせてた奴のいうセリフか!」
「ふん、
ヴェリアス大陸には大きく分けて二つの流派があり、その一つがメアリーが使う
それぞれ名前からわかる通り、西陸流は
戦闘スタイルとしては、西陸流は速度と攻撃力に特化した技を得意とし、いわば攻めの剣。
対する東陸流は、受け流しとカウンターを主体とした防御に特化した流派で、両流派はまさに対極ともいえる剣技である。
たとえ師を持たない者であっても、生まれた国や関係で自然とどちらかの流派に偏ると言われている。
そしてオニキースはもまた、メアリーと同じく西陸流だった。
槍術と剣術では技の質は違うだろうが、基本は同じはずだと、グレイシャルは再び前へと出た。
仕掛けてくる攻撃は予測がつく。
おそらくは速度に任せて、突きの連打を繰り出してくるはず。
こちらはそれを魔力を纏った両腕で防ぎつつ、相手の
それがグレイシャルの作戦だった。
オニキースは向かっていく彼に対して、不敵な笑みのままただ身構えているだけだ。
もしかして反応できていないのか?
一切手を出してこない敵に、グレイシャルはそんなことを思いながら向かっていく。
そしてまるで大砲の弾のような勢いで突進し、相手との間合いを一気に縮めた。
槍が振れないほどの至近距離だ。
魔導兵士の中では落ちこぼれでも、並の人間と比べればグレイシャルの身体能力は高い。
この男よりも自分のほうが速いと、グレイシャルは確信したのだが――。
「
オニキースがそう口した直後、グレイシャルの全身が
服が焼け焦げ、一体何が起きたのかと動きが止まってしまう。
敵がそんなグレイシャルを見逃すわけもなく、オニキースは
「ぐぅッ!?」
またも激しく後退させられたが、グレイシャルは魔力を纏った両腕でなんとかこれをガードし、ダメージを最小限に抑える。
下がらされたことで距離ができると、オニキースは槍を肩に担ぐと「ほう」と感心した表情を見せた。
グレイシャルは、そんな敵を見据えながら考える。
先ほどの攻撃は一体なんだったのか?
普通に考えれば魔術としか思えないが、それはあり得ない。
なぜならば、グレイシャルのような子どもたちを育てて戦わせていた組織――つまり現サングィスリング帝国の幹部たちは、魔術が使えないからこそ彼らを魔導兵士にして道具として使っていたのだ。
まさか帝国となってから魔術を学んだのか?
いや、それもあり得ない。
魔術はそもそも生まれつき魔力を持たない者には使えない。
もし持たざる者が後天的に使用したいのならば――。
グレイシャルのように人工的に魔力を体に定着させるか、または子どもが老人になるくらいの時間をかけた修行が必要らしい。
そのことをルヴァーナから聞いていたグレイシャルは、どちらも正解ではないと思っていた。
それは成人した者の体には魔力が定着しないからだ。
だからこそオニキースたちが所属する組織――帝国は、グレイシャルたちのような身寄りのない子どもを集める必要があったのだ。
だがそうなると、一体どんな方法で魔術が使えるようになったのか?
まさか帝国が他の方法をあみ出したのだろうか?
しかしいくら頭を
「どうしてだ? とでも言いたい顔をしているな。無理もない」
そんな様子を見るように身構えるグレイシャルを見て、オニキースが嬉しそうに口を開いた。
グレイシャルはオニキースとは初対面だったが(過去に会っていた可能性もあるが)、その顔には見覚えがあった。
その顔は、敵と戦って死んでいく魔導兵士の少年少女らを、安全な場所から
オニキースの笑みを見て、過去――あのときのことを思い出してしまったグレイシャルは、手足が震え始めて身が固くなっていく。
嘲笑するような怒鳴り声が、頭の中で響き始める。
聞こえないはずの声のせいで、オニキースに対して
忘れていた
「せっかくだからどうしてかを話してやる。この話を聞けば、俺が貴様を捕らえた後、自分の身に何が起きるかもわかるからな」
オニキースは
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