過去

<memory>「おまえは生まれなければよかった」「おまえは化け物だ」</memory>

わたしがセカイから否定されていると感じたのはずいぶん昔だ。わたしの小さなカラダには、気持ちの悪い青紫色がところどころにあった。押すと痛いそれが痣だと知ったのは<あの少年>に出会ってからだ。


 あの少年はわたしを救ってくれるのだけど…………あの少年との出会いと思い出を語る前に、わたしの育ったセカイは表だったのか裏だったのか、わたしの痣はどうしてできたのか、わたしは喜劇のヒロインだったのか悲劇のヒロインだったのか。それらを語ろう。



<past>普通ではないと知らされたときの記憶は今でも忘れない。


 化け物として生まれたわたしはいつもお腹が空いていた。家は貧乏というほど貧乏ではなかったけど、わたしの存在がぎりぎりの生活を招いていた。


 特異人だから、平均的特異人じゃないから、魂と肉体を調和させていないから……。


 そんな「わたし」を嫌いな「わたし」は案の定他人にも嫌われていた。だけど、わたしの家族――父と母と妹――は化け物のわたしに優しくしてくれた。


 常人の父と母と妹、普通じゃないわたし、一般的な四人家族……いいや、三人と「わたし」という一匹のケモノに取り憑かれた家族。


 特異人がひとりでもいる家庭といえば悲劇へのレールを敷かれるのが世の常――そう、「わたし」の存在があったから、運命の女神はわたしの汚いレールを裏社会と結びつけた。


「裏社会」という言葉を耳にしたのは、十歳の――あの日だ。


 本当だったら寝静まっている時間。この日珍しく寝付けないわたしは、たまたま父と母の会話を聴いてしまった。


「あの子の夢は『お花屋さん』だとさ」


「そんなこと言ってたわね。ふっ、特異人のくせに将来の夢なんて持っちゃって、マジ笑える」


「ほんと金が掛かる疫病神の娘だ。まあ、将来は裏社会のリソースになるんだ、そう思えばおれたちが苦労してきた事に意味はあるだろ」


「あの子、顔は良いんだから高級娼婦もありかもよ? 処女ヴァージンだろうし、いま売ったらかなりの金になる」


「目が良いだけの特異能力だからなあ、その選択での危険性はないだろうが……もし裏の政府シークレット・ガバメントに見つかりでもしたらおれたちは拷問されて最後には殺されるぞ」


「はっ、あと八年も世話しなくちゃいけないとか――最悪」


 今思えば、わたしの第六感が芽生えたのはその時からだ。


 たばことアルコールと白い粉。リビングにいる両親は腐った臭いと汚い色と雑音とその他諸々……わたしの嫌いな空間で笑っていた。


 わたしには「お花屋さんになる」なんて将来の夢があったのだけど、両親の言葉を聴いて夢を持つことを諦めたのだ。


 そしてこの日、わたしが思い知らされたことは――特異人は夢なんて持っちゃいけないということ、生きているだけで迷惑だということ、どこまでいっても常人にはなれないということ。


(わたしは、セカイから否定されているということ)


 両親の会話を聴いたわたしは寝室に戻り、毛布にくるまって涙を溢れさせた。溢れ出る感情は怒りなのか喜びなのか哀しみなのか苦しみなのか…………十歳のわたしは、その日初めて<たくさんのなみだ>を、「こころ」に刻まれてしまった。


――<project> <第一封印の存在を確認> </project>

 わたしに見えたその計画は未来への架け橋となるのだ――

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