稼ぎ時
と、そこに、
「やあやあ、新兵君。イェーガーの綺麗な指先でシゴかれてイキたくてもイケない焦らしプレイを毎日のように味わうのはどんな気分だい? それとも焦らしプレイはしてなくて、イェーガーの手だけじゃなくお腹や太ももや可愛らしいお口を使って……君はイェーガーのカラダに遺伝情報をべたべた塗りたくっているのかい? でもわたしには君が満足しているようには見えないんだよねぇ。君のもう一本のアソコは、それはもうキャパビリティやキャパシティでさえ手に負えない
こんなお下品なネタを……いや、人間の欲をぺらぺら喋るのはマスコットの他にいない。
ただの性的な話でないのは確かだ、マスコットが言いのは「わたしの代わりに仕事をしなさい」という人間的な欲だ。
その意味を理解しているであろうブレインは珍しく引きつった笑顔をしている。ブレインの表情を見るマスコットはいつものように上機嫌? ではないようだ。
彼女がストレスを抱えているのは理解しているつもりでも、うんざりするわたしは、
「仕事中。邪魔しない、アンダスタン?」
「おぉいえす! そーりー、と言いたいけれど、これ以上わたしのこころとカラダに刷り込み教育をしないでおくれ、わたしのこころとカラダはわたしだけのモノなのだ。それにイェーガーはブレインばっかりこき使ってズルいよ!」
「わたしはブレインのオペレータなのだから、使えない道具に仕事を覚えさせないでどうするのよ。これが社会システムでありセカイシステムなの、ズルでも何でもないでしょ」
わたしとマスコットが言い合っている隣から「使えない道具ですか……」と気の抜けた声がハッキリと聞こえたけれど、わたしは無視しておいた。
――わたしは決してストーカーではない。そう思いながら、<シリアスな空気でもないのに、変人ブレインは落ち込むこともあるようだ>と記憶領域に保管する。
〝ブレインによる、ブレインのための、ブレイン化された世界〟ブレインブレインブレイン。
「イヴィル・ハンティングでは使えない道具だけど他の事には使えるでしょ。
そう訴えられても困ってしまう。以前はビショップとドクに面倒な仕事をおしつけていた。その出来る彼らがいなくなった今、さらに忙しくなるし、慣れないことをやらされるのは仕方がない。新技術を取り入れる裏社会では表社会のように情報を買って複製することはしない。だから、最先端に疎い人間は裏社会では置いてかれる。つまりは、人員不足が加速するのだ。
「それでもセカイは回り続ける……だからさ、休暇でも取ったら? そのこころとカラダがあなたのものならもっと大切にしたらいいじゃない」
「それはいい案だ! けれどクイーンからの頼みごともあるし……なにより他の裏企業の上位連中は<遊星からの特異人X>の件で忙しい、つまり稼ぎ時!」
そうだった、十日前にXの情報は公開されている…………なんて言ったけど、公開された情報は<後天性特異人の出現>という空気みたいな情報であって昨日まで性別や特異能力へ結びつく情報はなし。それでもXの削除報酬があり得ないほどのものだったから、みんな躍起になっているらしい。
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