他人の不幸は蜜の味
昨日……わたしたちは――
ブレインの歓迎会を予定に入れる時間さえ与えられなかった。
「さっそくだがこれを見てほしい」と、ドクは資料を表示させる。
そこに写っていたのは、昨夜わたしが始末したターゲットの女だった。頭は吹き飛んでいて、背中を露出させられたなんとも哀れな亡骸。
はじめは「ただの死体か」と思ったわたしだが、その背中に書いてある文字を見て「ふざけんな! 今回で二度目だぞ! こいつが犯人じゃなかったのかよ!」
とテーブルを叩き憤激してしまった。あり得るはずのない重大な失敗と大きな事件の延長。その二つが同時にわたしの脳内を駆け回っている。三つ目を加えると、わたしの下積み時代が少しだけ遡るといった、目標との差の開きに思考停止も同時進行している。
「『
と、一人だけ状況をつかめていないだろうブレインは、死体の背中に書いてある文字を読み上げた。続ける彼は、
「確か意味は、『他人の不幸は蜜の味』みたいな言い回しですね」
「そう、死語のネットスラングで『メシウマ』ってだ。いつの時代のジジイだかババアだか知らないけどわたしを煽りやがって、面白い犯人だよ……ほんと、面白すぎて殺したくなるね」
「そういうことですか、犠牲者は運が悪かった」
ブレインはわたしたちの重大な失敗と大きな事件の延長が分かったらしい。
――わたしたちの失敗は、標的ではないヒトの殺害。そして大きな事件の延長は、特異能力行使の間接的殺人事件。間抜けなことに二度も同じ犯人に踊らされたのだ。
「お察しの通り、我々は昨夜、表の管轄に手を出した。というより、出すように仕向けられたと言った方が正しいね」
「あんたの言った『遅れた』ってそういうこと……でもドク、どうしてあんたは犠牲者が標的じゃないって判ったの? 送信された情報で判断なんてできないでしょ」
何を知っている、とわたしは疑いの目で訊いた。
「いいえ、判りませんでしたよ――ただ、今のチームを組んでから我々は初めての失敗をした。ということを珍しく考えてしまったもので。これはビショップとマスコットの探りを入れてもシュメルツ部隊には勝ち目がないかもしれないとね。事前にメッセージまで残す犯人、相当の自信家だ。もっと早くに削除の凍結をすべきだったよ」
「そういうことね。それで、アルカナムの幹部連中はなんて……」
とわたしはイライラしながら訊くとドクは疲れたような顔で、
「『失敗は働いて取り戻せ』、だそうだ。それ以外は何も」
簡単に言ってくれる。ビショップとマスコットの組み合わせで追跡したのに、二度目の失敗だぞ、幹部どもはいつまで威張った態度をしていれば気がすむ。これでまた失敗したら何を言うのだろう。
「解せないね。こっちにはビショップの【
「――
わたしのことばをクイーンが継ぐ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます