用意されたアドバンテージ

 と、そこでわたしは振り返って、


「で、話は変わるけど今回の制限時間は今日中。標的ターゲットの平日スケジュールはDリストに書いてあった通り規則的。表の管轄に気づかれないように削除するチャンスは午後六時と午後二十三時半過ぎあたり。だから、午後六時前にわたしのミッションを達成する」


「それより先に標的が追い詰められて、仕留められたら……」


「その場合は仕方ない、けれどあなたは今回トップクラスの有利アドバンテージをもらっているからね」


「アドバンテージ……他の参加者がハンデを受けているということですか」


「そう。このゲームには下のランク連中に可哀想な思いをさせないためや、視聴者ギャンブラーが他の将来性の能力者キャパビリティを品定めする時間が用意してある。つまり、上位や中位ランク連中は何かしらのハンディキャップを背負う――例えば、時間帯制限やDリストの情報が顔写真のみ、とかね。今回は初心者の教育ってことで、わたしのハンデはあなたの存在だけ……その不利な条件は最悪のものだったけどね」


「なるほど、長い目で見るギャンブルであり、血の色をした過剰競争レッド・オーシャンでのスポーツですか」


「ランキングによる差別化をしなければ上位は下位を食い物にするだけのクソゲーになる。そんなもの視聴者連中は上位に賭けるのが当たり前になるし、観る価値も緊張感もなくなる」


 と理解してくれるブレインに、仕事熱心な美人上司のわたしは長ったらしい説明をしてあげた――いいや、現在進行形で説明をするのだ。


「シュメルツ部隊はわたしとドクが上位ハートランカー、マスコットとビショップが中位ダイヤランカー。上位ランカーは参加さえしておけばいいけど……上位って顧客に信用されるブランドを持っているわけでしょ、わたしに賭けてくれるヒトはわたしを信用しているわけ。だから、下の奴らにみっともない負け方は許されなくなるの、初心者あなたと組んでいてもね」


 そんなわけで、みんな教育係をやりたがらないのだ。上位や中位のランカーがハンデを背負っているとしても、出番が回って来れば嫌でも見せ所を用意しなくてはならない。注目を集めるのも観客から信頼を獲得するのも、まずは舞台に立つこと。


「どんな事にでもビギナーズラックはあるとしても、ブラッド・スポーツにおいては約束された幸運があるんですね」


「そう、初戦は完全勝利するテンプレートなのよ――あなたの意識次第だけどね」


 と説明を終えたわたしは公園のベンチに腰掛けて、小型の機械鳥ブルーバードで辺りをオート飛行させる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る