シンフォニー

「『犯罪や紛争を裏で操っている人間がいる』、それから場面が切り替わって『シンフォニーに相応しい器を……』という言葉が秘密領域シークレット・ドメインに残されていました」


 脳領域、<オープン領域、プライベート領域、シークレット領域>というものがブレインには見えるらしく、先ほどの二つはシークレット領域の靄がかからない部分だそうだ。


 デメリットが大きい分、ブレインはわたしよりも情報収集にたけている。その証拠に――


<li1:操れる人間>、この情報は政府が管理している特異人に存在しない。つまり、標的は「謎の人物」から後天性特異人の情報を得ていた。


<li2:交響曲シンフォニー、相応しい器>……こちらの情報は鮮明とはいかない。そのため、裏社会で推測する構造は――【シンフォニー】と呼ばれる共同体の存在がある、となる。


 ブレインの実力を測れたわたしは、次に――得られた情報を多面的に分析してみるが、少ない情報のなかで繋がる部分は限られていた。


(Xと繋がるパスを持っていたらよかったんだけど、花をつけない草は只の草か)


 はあ、と大きく息をはき出したわたしはXの件を保留にして、


「最後に一つ訊いておきたいことがあるの、『王は何が望みなの……』」


「王……王の望み…………『我々の王は生まれた時から怪物だった。そのままでよかった、なのに後に待つ運命は怪物を魔王に変えてしまった』」


 と落ち着きを取り戻した男は、撃たれた太ももの痛みを感じていないように平然と立ちあがった。そして、ブレインに笑顔を向けて、


「必要はないと思うけど、君に一つだけ<真理への鍵>を差し上げよう――『昼夜で王は変化する、しかしそれは物語の中だけの話だ。いまの王は調和の中に生きている』」


 標的の言ったことを理解できないわたしは眉をひそめていた。


 なぜブレインに……。わたしは疑問に思い隣に視点を移すと――そこには裏社会でも見たことのない不気味な笑みを浮かべる「ブレイン?」がいた。


 反射的に可視化を使ったわたしだけど、ブレインの精神異常サイコ指数や情緒的安定エモーショナル・スタビリティ指数はフラットであって歪んでいる箇所は一つも見られなかった。ただ、<嬉しい、楽しい>という感情はハッキリとグラフに表れていた。


 この時から王様は動きだしていた。それに気付けなかったわたしといえば――


(――まあ、復讐へ到る材料を見つけたのだろう)、と納得しておいて。わたしは可視化を解き、ブレインに銃を取り出すように命令した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る