介入

「ちょっとお時間よろしいかしら……」


 わたしはわたしの目の前を通り過ぎようとする男性に話しかけた。


 わたしたちの目の前にいるのは今回のイヴィル・ハンティングの標的だ。その標的は逃げることもせず、わたしが指さしたヒト気のない場所に移動してくれた。


 魂を抜かれたような標的はいつもと同じなのだが、言うことを聞き入れる標的は初めてだ。


 ステルスバードに表示された文字と数字は<標的:Hit><参加者:2>。周辺の安全確認を済ませたわたしは、余りそうな時間を利用して幾つか質問してやろうと思った。〝問わねばならない〟と、可視化ヴィジュアリゼーション・スコープを最大限に利用して問いたださなければならない。


 と、なぜかわたしは不思議な感覚に支配されていた。


「一つ、なぜあなたはわたしたちの指示におとなしく従ったの……」


「今回の舞台はこうあるべきだと思った。構成は自由であっても運命に自由はない」


「二つ、あなたはどこかの組織に操られているの……」


「いいえ、ワタシはワタシです」


「三つ、あなたはどんな理由でヒトを殺したの……」


「え? ワタシがヒトを殺した……いいや、殺した? 誰を……なぜ殺した……」


 と、突然取り乱す男はわたしたちから逃げようとする、けれどその行為を許さないわたしは、取り出したハンドガンで男の太ももを容赦なく撃つ。


「こんなに綺麗な乙女から逃げようなんて失礼ね。わたしの質問は終わっていないわ」


この運命は標的もわたしも逃さない。


「四つ、最近完成体エピらしき特異人が出てきたんだけど、それについて何か耳にしたことは……」


「知らない! 知らないんだ! 『わたし』が今まで何をしてきたのかも、何も分からない」


 分からない、を連呼する標的。そこには普通の人間のような表情が戻っていた。


 可視化で見た男の心理グラフは三つ目の質問以降フラットではなく歪んでいる。三つ目でこうなることは予想できていたがここまで汚いグラフは予想を超えていた。


(標的と裏の政府シークレット・ガバメントとの間にアクションなし。分かったことは、今回の標的も気味悪いスプーキー


 と、可視化を解くわたしはブレインに特異能力――介入インターベンション――を使うよう命令した。


【介入】、一分間の接触により対象の記憶を読みこむ最低な能力。そのはずなのだが、標的の地肌に触れるブレインは不快感を表す渋い顔になって、


「靄がかかっています。これでは一部しか読みこめない」


「その一部にこの男と接触のあった人物、もしくは会話内容があったら教えて」


 …………標的に意識を集中して数秒経った頃だ。情報を探るブレインは調子を崩したように額に汗を浮かばせ、肌は青白く変わっていた――特異能力のデメリット。いまの彼は朦朧とする状態にあるのだろう。


ブレインの能力は外見に現れやすく長いこと維持はできなさそうだ。


と冷静な分析をしているわたしは、倒れそうになったブレインに肩を貸して、


「おつかれ。で、何がわかった……」

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