ネクロス

<project>

「<Q:鍵は見つかったか>」


 その質問をブレインは理解したらしく、ははっ、と苦し紛れの笑顔をして、


「ここに来てやっと繋がりました。その現在、正直に言うと精神の限界を迎えています」


「それでも立ち止まらんのだろう……」


「もちろん。それが『ぼく』であり、『ぼく』を救うたった一つの冴えたやりかたです」

</project>


 ふたりの話を聞いていたわたしは何のことかさっぱりだった。そのことでさらに不愉快になったわたしは、話し終わったのだろうふたりを交互に見て、


「最弱の王様についてはこの辺でいいでしょう。と、わたしが訊きたいことは――<完成体を殺したことのある「あなた」が、今回の噂話をどう思っているか>」


「せっかちだのう。<アンサー:わしは完成体なんぞ死なせたことはない、噂話には興味がない>」


 その返答はわたしに疑問をうえつけた。わたしは可視化ヴィジュアリゼーション・スコープを使い、できるだけ正確な情報を読み取っている。しかし相手が完成体ということもあり、ピクセル化やブラインド化で右頬や左目やらを不可視化プロテクトされていた。だから疑問なのだ、読み取れるはずのない領域にも関わらず、この瞬間、わたしが正確に読み取れたのは――爺さんが嘘をついていること。


(さすが完成体、ガードもお堅い)「まあいいです。今日は噂話の他に情報を持ってきたので、そちらも話しておきたい」


 完成体の実力に感心するわたしはところどころモザイク処理された爺さんの顔を見て、


最高機密権力責任者CECO(チーフ・エグゼクティブ・コンフィデンシャル・オーソリティ)その円卓に席を持つあなたは何の事かさっぱりでしょうけど……勝手に質問させていただきます」


<QⅠ:戦争を裏で操っている人物>


<QⅡ:【シンフォニー】という言葉>


 イヴィル・ハンティングの日にブレインの能力を使って明らかとなった二つの情報。


 その二つを言うと、爺さんは何も反応せず瞼を閉じる。


 間違いない――このジジイは知っている。


「質問の内容を理解していますね。そうなんでしょ……<コードネーム:屍人の王ネクロス>。それとも《蠅の王》と呼んだ方が今のあなたには似合っていますか?」


「ふっ、蠅の王か……そっちの方が似合っておる」


 わたしが耳にした「爺さんネクロス」の話――<ある雨の日のこと、ネクロスは完成体恋人を殺した。恋人のカラダは雨に打たれ、腹部から溢れ出た血液は路面上に花のような模様を描いていた。女は死んでいた。その死体に寄り添うようにいたのが「ネクロス」だった。屍人の王が死人のような顔をしていたらしく、発見したヒトはこう言った――『まるで蠅だ』と>


「蠅では罵る言葉にならない。ヒトを罵る時の言葉は――『あなたは、どうしようもなく人間的だ』ですよ」


 わたしが言うと、爺さんは重そうな瞼を開け柔らかい表情を見せた。


「……わしは未熟のようだ。嘘をつこうと変換するが、変換したとしても嘘だとばれてしまうような軟なプロテクト。お前の瞳を見ると強固なプロテクトなんて考えられんわい」


「つまり、噂話に興味がある。加えて二つの情報を耳にしているということですね」


 わたしが訊くと爺さんは頷き、真剣な顔をする。

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