クイーンの気持ち
仕事に集中するためにわたしは無線をオフにしようとするけれど、
<アルカナムにひとりで戻ってきたブレインは涼しげな笑顔をしていました。みんなから非難の声が上がろうと彼は笑顔でしたのよ>
「なにそれ、ビショップと同じでブレインもマゾヒストなの……」
<だといいのですけど……何か不気味なものを感じてしまいました。彼の匂いや色や音は未熟で、裏社会に慣れた
特異人の持つ
「裏社会にブレインのような特異人が来たのは初めて。だから一時的に感覚が狂ったのかもしれない。それにブレインが危険な特異人なら裏の政府も黙っていないでしょ……」
<気のせい…………そうよね。何だかカラダの調子が悪いのよ――彼を見るとモヤモヤしたり、彼がイェーガーと話しているとところを見るとイライラして、最近変なの。彼について知るためにイェーガーからアクションを起こせませんか……>
それを聴いたわたしは「は?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。
彼女は真面目な話をしている。わたしはそう思っていたのだが、それは勘違いだったようだ――いいや、もし彼女が子孫を残そうと考えているのだったら真面目な話になるだろう。
結局はクイーンも乙女であって、ひと目惚れするような女であった。
(恋愛相談なんかのために無線を私的利用するな! ガキンチョ)。とうんざりしたわたしは、
「
<ですが彼の目的を考慮すると訊くのが難しいですし、わたしが詮索するのはプライベートの話しになってくるわけですし、裏社会の規則違反にも……>
「――それで『ブレインを調べて』とか言うなら、わたしが規則違反になるんだけど」
そう言ってやると、無線からは乙女の唸るような声だけが響いた。
<芽吹く春、生命の樹に花が咲く>。わたしに届く依頼に「春よこい」などと呼ばれるものがある。<春の訪れと、小さないのちの誕生>についてかっこよく言ってみたけど、要はわたしの
可視化による最高の信頼性でわたしのビジネスは盛り上がっている――それでだ、わたしのビジネスを邪魔しようとする輩が
まあ計画や夢想家はどうでもいいけど、クイーン様に大金を積まれても土下座で頼み込まれても、わたしのビジネスを今より盛り上げるわけにはいかない。
〝お金や、さてお金や、お金や〟やはりお金は死語にはならないし、死語にするのは勿体ない。
〝Dリストや、さてDリストや、Dリストや〟ということでわたしは仕事に戻ろうと、
「そろそろ標的を削除しないといけないから切るよ――まあ、お話しでもしてみればいいじゃない……ひとりで何もできないお嬢様は箱の中で腐るだけよ」
<ふふっ、それは残念。では今日のところは失礼します――グッナイ>、とクイーンからあっさり返ってきたのでわたしは無線をオフにしてから<お休み中>に設定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます