血に塗れたオリンピック

<ここからは外骨格を纏っていないわたしの話>


 あれは午後三時ちょうど……


 Dリストが渡ってきて、わたしは退屈そうにその情報を見ていた。


 急な連絡であったにも関わらず、Dリストには標的の顔写真と諸々の詳細情報が記載されている。つまり、この瞬間から他組織との過剰競争が始まっている、そしてこの競争は計画的なもの――裏の政府が仕組んだ特異人狩りブラッド・スポーツということだ。


 ブラッド・スポーツ、その正式名称を【イヴィル・ハンティング】と言う。<ルールは簡単、制限時間内に特異人を追い詰めてひとりになったところを削除する>


 わたしが参加した理由は、


<目標1:競争に参加して賭けの倍率を変動させるため>

<目標2:アルカナムの連中が個人で参加しているため>

<extra:例の犯人の追跡が滞っているため>


 目標2はわたし個人のものとして。目標1は競争人数が増えれば増えるほど倍率が高くなる重要なもの。<余分エクストラ>は、被害者が所持していた情報端末を利用して犯人の追跡を試みたり、公共の監視カメラに映った被害者と接触のある人物を片っ端から調べてもらっている。


 まあ、<余分>に関してはわたし主導でやらなくてはいけないのだが、ブレインに裏社会を教えるいい機会だから、今は機械に任せて…………その話を置いとくとして。


 先ほど言ったルールと目標1は普通のルールと目標だ。


 アルカナムの幹部陣がわたしに与えたミッションは、


<シークレット:標的と対話し、今回は――『王は何が望みだ……』と問いかける>、それだけでいい。【エニグマ・ミッション】と言われるもので、基本的に将来性の能力者キャパビリティの中でも上位ランクに位置する者に押し付けられる。一部の裏企業で構成された組織――【秘密権力シークレット・オーソリティー】――の勝手な行動だけど、裏の政府シークレット・ガバメントは意外にも協力的で『共に真理を目指す者来たれ、真の円卓に相応しい者を我々は求める』。と訳の分からないことを言っているらしいが要は裏の政府も遊びたいのだろう。


 ま、わたしからすればエニグマ・ミッションを遂行する意味があるのか疑問だ。なんせ今までにミッションをクリアした者はいても、標的が返してくる言葉といえば、『自分は何をした? 罪のない人間を殺した……。覚えていない。なぜだ、なぜ殺した。教えてほしい、自分はなぜ殺したのだ……』そんな感じでいつも同じだ。


 わたしもクリアした者のひとり。その時に対話した標的は怪物に操られているような無意識の状態に等しかった。可視化ヴィジュアリゼーション・スコープを使っても真偽の判断はできないし、まるで抜け殻のような特異人だったのを今でも覚えている。


 そんな下らないミッションでも……『イヴィル・ハンティングの中に組み込まれた、<玉座>へ繋がるプログラムじゃないか?』、なんて特異人の中に噂する者もいるから、モチベーションを上げるのにはもってこいなのだ。


【誰も辿り着けない頂】。裏社会の上層部が特異人わたしたちを上手く使うには、そういう見え隠れする頂点が必要なのかもしれない。


 ――現にわたしは個人でのトップを目指している。なのだが、


「ブラッド・スポーツですか。血に塗れたオリンピック、いいや、開催シーズンが不規則なあたり本番までの練習期間でしょうか」


 とわたしの隣に座るブレインは真面目な顔つきで言う。

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