蝮の子

 はあー、とお風呂から上がったわたしはソファーに寝そべる。


 久々の妹との優しい時間はゆったりしたものであったけど、駆け足で過ぎてしまった。


「セカンドマスターはまだ就寝しないのですか……」


「ん? うーん。ねえキレートくん、屋上に行きたいんだけど……屋上へ繋がる扉の認証や警備ロボットはわたしを通してくれないんだよね。だからさ、今日もハッキングで頼むよ」


 と、わたしはワイン壜を見せつけながら言う。するとキレートくんは、乗り気ではないような顔文字を表示して、


「ネット情報によると、アルコールは良いものとは書かれていません、『節度を守る』などとおっしゃっても屋上へのハッキングはしませんよ。飲むならここで、ほどほどに飲んでください」


「珍しく堅いことを言うのね。いつもなら、『セカンドマスターの頼みならしかたありません』、って言うのに。勉強のしすぎはロボットに悪影響ね……勉強はほどほどにしなさい。それと、ヒトにはアルコールが必要な時もあるって頭に入れておきなさい」


 わたしはキレートくんを叱るのだ。キレートくんに教育をするのはいつも妹だから、自然と妹に似てくるのかもしれない。だから、今度は少しずつわたし色に染めてやろうと思う。


「もちろん分かっております。それで、セカンドマスターは屋上へ行きたいのですか……」


 そう返してくるキレートくんにわたしはニコッと笑って、


「なかなか話しの分かるロボットじゃない。蝮の子は蝮ってか?」


「ある意味、わたしはあなたの子です。禁止されている行為をやるのも「親の命令」、としておけば責任を押し付けられます。ですが、わたしに意識というものがあるのなら、自らの【運命】というものに抗ってみたいのです。<罪である>、と機械的に制御された行為を自ら破ってみたいのです」


 そう話したキレートくんに対して、今の人間たちよりも人間らしいと思った。


「何を今さら、結構前から抗っているじゃない。わたしの命令だったのかもしれないけどね」


 人間の子供の成長って、ロボットより遅くて大人より駆け足。キレートくんはロボットなのに殻を破ろうとしている――子供の成長より駆け足でおとなのわたしよりもずっとおとなびている。


(完璧ってロボットみたいな人間なのかな……)


そんなことを、わたしは誰に問うでもなく思った。

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