21グラムの重み
教育係として、現在わたしはブレインとふたりチームでの行動だ。
「んな練習期間あってたまるか。セカイ各地、年中無休で開催されているクソブラックスポーツだぞ。加えて、そのクソスポーツはランキングの変動も早い。だから、あなたのできる範囲で視聴者の注目を集めなきゃ周りに置いて行かれる――わたしも含めて他の特異人連中を死にもの狂いで蹴落としなさい。実践あるのみ、ってな感じで最初はわたしに付いておいで」
わたしは言って座席から立ちあがる。続けてわたしは一言、
「必要なのはいろいろあるけど、イヴィル・ハンティングに最も必要な物は<これ>」
と、自分のデスクに指紋認証とパスワードを入力した。開かれたデスクから必要な物――ハンドガン――を取り出すと一丁をブレインに渡し、もう一丁は自分のホルスターに収める。
それじゃあ狩りに行くか、と言ったわたしは、右手に持つハンドガンを何の感情もなく見つめるブレインに気がつく。わたしは不思議に思ったけど、彼にとってそれは珍しい物なのだろう。GG国出身のうえに、かりそめの幸福を与えられていたブレインには衝撃的な重さ。
「思っていた以上に軽いんですね……」
「弾は入っていない。それに、特異人の『いのち』なんて21グラムあれば十分でしょ」
とブレインに返してやれば、聞き耳を立てていたであろうシュメルツ部隊の連中は、何が面白いのか分からないが失笑したらしい。
シュメルツ部隊の持ち場にはわたしとブレインだけでなく、ビショップとマスコット、その他に常人連中がいて各々が仕事やら好きなことをしていた。
そんな連中――特に特異人――にわたしは微笑みを浮かべて、「ごめんなさいね。わたしが上位ランカーでも『新人の教育』って言う三十キログラムの砂袋を背負っているからあなたたちよりチャンスが一回多いみたい」と去り際に言ってやった。
先程いた部屋からはブーイングのようなものが聞こえたが、わたしは気にせずブレインと一緒に昇りのエレベーターに乗って一階のフロアで降りる。
スタスタスタ…………そんな感じの擬音が連続していそうな軽快なリズムで、わたしと彼は目的地まで歩を進める。
「正直言うと、覚えることが多過ぎてパンクしそうです」
背後のブレインは自信がないような声を響かせていた。そんな彼にわたしは振り返らずに、
「そのうち慣れる。表企業にルーティン・ワークってあるでしょ、それと同じでわたしたちのカラダは機械みたいにオート化されていく。つまり、難しくてクソつまらない業務をやっていれば嫌でも覚える……でしょ? まあ、初めは腰巾着にでもなっていればいいのよ」
「あははは、ぼくとあなたじゃスペックが違うのに簡単に言ってくれる、とはいっても裏社会に来た以上仕方がありませんね。イェーガーも初めの頃は指導を受けていたのですか……」
「……いいや、わたしはひとりだった」
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