狩猟家の憩いの場2
「晩御飯まだでしょ……」
「うん、お腹空いた」
「よし! 今日はお姉さまの最高のディナーをご馳走してあげる!」
「お姉ちゃんと同じ量を食べたら肥っちゃうよ……『おやおや、美味しそうな姉妹だね、特にそっちの娘は脂が乗っていて頃合いだねぇ。と言ってきた魔女に憤りを感じたわたしは、カラダ全体を使ったプレス技をお見舞いした。のそのそと立ち上がったわたしは、既に昇天している魔女にこう言ってやるのだ――これがお姉ちゃんと同じ量を食べてきたわたしの力だ、つまり、特異人と同じ能力だ! ばかにすることは許さないぞ!』ってさ」
「ふふふっ、その物語の基って《ヘンゼルとグレーテル》でしょ。お菓子の家なんてわたしには作れないけど、それなりに期待してね――まあ、作れてしまった場合、わたしは魔女で死の運命から逃れられないのだけれど」
と、エプロンを身につけたわたしは今度こそ笑っていた。
そう、乙女ひとりが寝るだけに使うには広すぎるし高級すぎる。だから、わたしは妹とふたりでここに住んでいる――それでもつり合わないほど広いけれど、わたしが『安心して任せられる警備』という条件を満たしているのはここしかなかった。加えて、わたしの能力を遮断できる電磁波がマンション全体に通っているから透視でのプライヴァシーを侵害することもない。
こうしたことがあるから特異人は住居を見つけるのも大変なのだ。見つかったとしても、受け入れてもらえないこともあるし、お金の問題になってしまう。
わたしは――いや、特異人は衣食住を満たすためにもたくさんのお金がかかる。だから、裏社会なんていう劣悪な環境で仕事をする、それはある意味強制されているけど現状どうしようもないことだ。
劣悪な環境でも「仕方がない」と簡単に言ってしまうのがこの最低な社会でありセカイだ。「主観の問題です」とブレインが言っていたことをわたしは思いだした。そう、わたしの主観だ。見ている世界が違うし規模が違う、おまけに
とキレートくんとキッチンで炊事をしているわたしは、ムカつく新入りのことでため息をついていた。それがまずかったらしく、耳の良い妹は、
「お姉ちゃん、なんか嫌なことあったでしょ……」
「え……何もないよ」
妹に訊かれたことをわたしはいつものように明るい声で返す。
「わたし、お姉ちゃんの憂鬱なため息久々に聞いた……かもしれない。だから変だなって」
「あはは、憂鬱か……まあ、疲れていたらため息くらい出るものでしょ。キレートくんは疲れも知らないしため息も出ないけど」
とわたしは妹に覚られないように明るく誤魔化すのだ。
わたしは裏社会で働いていることを妹に隠している。
「ヒトを殺してストレスを発散する」とはマスコットに言ったけど……そんなことでわたしのストレスは解消されない。どうすれば解消できるのか聞きたいものだ。
汚染された空気は社会から広がり、次に国を覆い、最終的に世界を汚す――小さな冒険は大冒険だったように、少年や少女の心を犯すのだ。
綺麗なものと汚いもの、それぞれ受け継いだり積み重ねたりしてここまで来た。この先の未来も「わたし」が「わたし」でいれる保障はない。過去のわたしが死んでしまったように。
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