完璧な生き物
と憂鬱な気分でいると、突発的な頭痛がわたしを襲ってきた。
そのあまりの痛みにわたしは倒れそうになるけど、キッチンにはキレートくんがいたおかげで倒れることはなかった。
キレートくんのアームに助けられたわたしは、小声でお礼を言ってそのままアームに腰掛ける。するとリビングから、
「心と体の調和を保てていない……そんな感じの音が聞こえてきた」妹はそう言った。
微かに歪んだ音。それも逃さない妹の聴力と空間認識力はわたしを少し焦らせる。
「お姉ちゃん、無理をしているでしょ……」
「――心配しなくていいよ、わたしは平気だからさ。貧血、最近多いのよ」
わたしは嘘で誤魔化すけれど、妹は疑っているようで、
「特異人って貧血になるのかな……その症状が出たってことはカラダに無理をさせているってことかもしれない。理由は他にあるんでしょ――わたしが迷惑かけているとか……」
そんなことを言ってきた妹に、
「迷惑じゃない! あなたは心配しなくていいの!」
結局わたしは怒鳴ってしまった。
大人たちの、不快感を表す汚いだけの音楽。その音楽に感情は宿っているけれど、機械に笑われそうな機械的なもので、ヒトの「こころ」を犯すことしかできなさそうな駄作だ。
わたしは哀しかった。
「お願いだから自分が迷惑だなんて思わないで」
と、わたしは頭を押さえながら言う――頭痛は一瞬のことだったのに頭を押さえていた、いいや、これは頭を抱えているのだろう。
妹がわたしに迷惑をかけているはずがない。逆に迷惑をかけているのはわたしなのに、妹は「ごめんなさい」と謝ってくる。
――わたしなんて……特異人なんて生まれてこなければよかった。
わたしは哀しくなった。それとともに、このセカイは最低なのだと改めて実感した。
「さあ、晩御飯にしましょう! 〝食いつく犬は吠えつかぬ〟けれど、たまに吠えた方が犬でも人間でも、それが生物らしさだと思われます。わたしはロボットですけどね」
キレートくんは暗い雰囲気を明るくしようとしたのだろう。冷静な判断の下で、自律して言葉を扱った。そんなことをしたロボットに、わたしは生命を感じてしまい笑った。妹もわたしと同じように笑っていた。
「確かに何も言わない人間は怖いわね」
そう言ってからわたしは晩御飯を運ぶ。
(不完全なパズルだ。わたしの物語は言の葉にするほど完璧ではない)
リビングのテーブルに用意した沢山の料理。それを椅子に座ったわたしはぼーっと見つめ、先程のことについて考える。
妹は自分自身のカラダを考えていたのに、わたしは何も考えず理不尽に声を上げてしまった。
これから先、妹は『自分』について何も言えなくなってしまうのではないか……。そう思ったわたしは後悔していた。
こころを言葉にして、さらに発言するには勇気がいる。妹は勇気を出したのだけれど、そのこころの言葉はわたしにとって不快でしかなかった。自分自身について妹に何も言えないくせに、勇気もないくせに。わたしは汚い言葉を操ったのだ。
(完璧な生き物ってどんな生き物……)
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