残虐な舞台

 いま思い返せば、少女のわたしでも少年は異質だと分かっていた。乙女のわたしが見ても完成体を超越する様な存在なのだろう。


 わたしとメルの食事がすむと、少年はわたしたちの手を取り「見せたいものがあるんだ」と言ってリビングの方へ導く。


 神様に助けられた、創造主に助けられた。そんな感覚を持ったわたしは少年にお礼を言おうとするのだけど――リビングに用意されたある光景を見て何も言えなくなってしまった。


 母の頭と未知の物体が皿に盛られた光景。絵画のように部屋も色付けされていて、鑑賞するわたしの感想といえば、


「きれい」


 その一言だった。純粋な悪意だった。


「さっきの料理に人を使ったとは考えなかった? てっきり君は吐いてしまうかと思ったけど」


 そう言われ、わたしは口元を押さえる。咄嗟に少年は「ははっ」と笑い、「さっきの料理に入れてないから安心していいよ。あのクズ肉は君たちを殴った彼のエサだからね」


 少年は手足を縛られているわたしの父に指さす。わたしとメルを殴った父は鎖に繋がれたケモノだ。潔癖なわたしには鳥肌ものの汚らしい人間。


 その父は少年を睨み、


「お前は裏の政府シークレット・ガバメントの犬だろう……どうやっておれたちに気づいた」


「ぼくは裏の政府のヒトではありません、しかし、感知した<悪意>は削除しなくてはならない」


「数回殴っただけだろ。それでこの仕打ちか? 裏社会の正規特異人のやり方はこうなのか?」


「食事を与えなかったでしょ? 人間にとってツラいことだし、特異人にとってどれほどツラいことか知らないのかい? それに――」


 と少年はわたしの腕の青紫色の部分を示して、


「この複数の痣は君たち大人の罪だろ……罪は清算しなければならない」


「まともな判断もできないクソガキのくせに罪を語るなよ!」


「あなたが踏み込んだのは裏社会だ、まともな人間なぞおらぬ。こちらの一族は生まれも育ちも違うのだ、貴様らのような何の変哲もない人攫いが育ちを邪魔するな」


「はっ……あーあ、こうなるんだったらもっと殴っとけばよかったなぁ」


 わたしは、目の前の父と思っていた〝人間〟があの者と同じ肉塊に変わってもいいと思った。いいや、そうなってほしいと願った。


 そんな人間は置いといて、わたしは少年のことをもっと知りたくなった。


(彼はどうしてわたしたちを助けたのだろう……)


 わたしとメルが可愛らしい少女だから少年は助けてくれた……なんて言ったらお笑い草だ。メルはともかく、当時のわたしはガリガリのカラダをした醜い少女だった。少年とは友達でもなかったし話したこともなかった。わたしと少年は初対面だった。


 少年はなぜわたしたちを助けてくれたのか……結局その答えを聴けなかった。

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