仕事内容
イヴィル・ハンティングのさなか、わたしは
<text:ふたりの被害者と接触した者の中に
景気の悪い情報を見たわたしは、
「詰んだかも」と子犬のような鳴き声を上げ、頭を抱えてしまった。隣のブレインといえば、
「政府は特異人能力の特徴を記録しているはずです。その記録からの追跡は……」
「たしかに個体登録はされている。しかし問題がある」
その問題というのは――先天性の能力なのか、後天性の能力なのか。
特異人は先天性であるのが普通だ、しかし、イレギュラーとして後天性の者もいる。したがって先天性の特異人は生まれた時の検査で個体登録されるけれど、後天性の特異人は個体登録されることが珍しくなる。
「後天性の特異人に関しては、GG国であったりまともなシステムがある国なら税金を利用して発見できるだろうけど……セカイ規模の話では別なのよ」
精密検査をしてから個体登録するにも
「特異人として認められれば、
わたしが言うとブレインは頷く。失うものもなく自由だけを願う特異人は少なくない。衣食住の食を満たせていればいいって連中は多いし、お金がなくても構わないって連中も多い。『特異人は
「ぼくの住んでいた国みたいに小さなセカイだけを見ていては視野が狭まってしまいますね」
「生まれが違うから仕方ないよ…………。それで、あなたには説明してなかった話に変わるけど、<今回の件>でアルカナムは裏の政府にも他の裏企業にも情報を七日だけ売らないことを約束してくれた。それまでに片付ける予定だけど、わたしにはあなたしか同士がいないの」
「ということは、ぼくは強制的に巻き込まれてしまったのですか……」
「そういうこと、美人上司とふたりは嬉しいでしょ?」とわたしは
それから、わたしはブレインにアルカナムの仕事の内容を一つ一つ説明することにした。
<liⅠ:有益な情報の売買>
<liⅡ:指名手配犯(主に特異人)の削除>
<liⅢ:イヴィル・ハンティング>
<liⅣ:後天性特異能力者の発見 (罪を犯していると確定された場合の削除)>
例の犯人についてはリストⅣにある(削除)が適用されているわけだ。具体的に何をしたのかの前に、これからは例の犯人の名称を『X』としておこう。
Xがはじめに犯した罪は、<常人から見れば自殺、特異人から見れば殺人>というものだ。現場には特異痕跡があった――それも能力に目覚めたばかりの赤子が悪気もなく犯行に及んだような<雑な処理の痕跡>。そのためビショップとマスコットの特異能力で追跡は容易だったのだが、上手いこと誘導されていることに気がつけずシュメルツ部隊は一度目の失敗に続けて二度目の失敗をしてしまったのだ。
と、この時わたしは〝あることば〟を思いだしていた。
「『目覚めてしまった眠り姫は今のセカイを憎んでおります。百年の呪いだったらよかったのですが、呪いは永遠でした』って、前のエニグマ・ミッションの標的が言っていた。まさか、いいや関係ないか」
「呪いですか……ある意味でぼくたちも呪われている。だから、真理を求める」
「うーん。前から思っていたけど、あなたってわたしよりも訳のわからないこと言うわよね」
「あはは、この場合は――Xについて詰みなのでしょう? と言った方がよかったですね」
とブレインは生意気にも皮肉めいた薄笑いで言ってきた。わたしは少しムカつきながら、
「詰みと確定していない。今はもう少し経ったら来る標的との対話を考えましょう」
気がつくと空は薄暗くなり、いつものような腐った風はわたしの鼻孔を一層強く刺激してくる。その風を浴びて育った裏社会の底辺連中は鮮やかな色を付けることなく咲いている――上位や下位の序列関係なく、わたしのように心の知能指数が低い連中は、誰かに気づいてもらおうとしてモノクロームを選択した。結果……白と黒の美しい作品を常人の誰よりも上手に描けても派手な色がなければただの草として見られたし、虫ですら寄り付かない異臭を放っていた。
ブレインの言った通り、精神と肉体は呪いで結ばれている。人類にとって、承認欲求なんていう煩わしいものは無い方がいいのかもしれない。
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