アルカナム
さて、そんな茶番はもういいとして、わたしはBさんから渡されたコーヒー片手に、
「で、会議ってなんの会議。これだけの人数集めたんだから特別なものでしょうね……」
とドクに訊いた。特別なもの、普通の人間では解決できない事件の発生、あるいは重大な…………それはありえないはず。
足と腕を組んで思考するわたしにドクは人差し指を立てて見せ、「新入りがひとり増えます」
そう清々しく答える彼にわたし以外は喜んだ。彼ら彼女らはなぜ喜ぶのか、わたしには分かる――仕事が減る、新人に仕事を押し付けられる、ただ単にどんな人間が来るか楽しみ。そしてなにより、わたしの罵詈雑言が新人に一点集中する。
「新人ねえ。わたしの前に顔を出せるほど特異な奴なの……それとも常人の補充? まあ、どんな人間が来ても失敗は許さないからね」
「そこまで完璧なヒトはいないさ。我々の組織――【アルカナム】――に不愛想の根源は一人いれば十分。ま、他人に甘さのある完璧主義者は完璧な怪物にはなれない」
「はっ、アルカナムの方針は失敗しても後々成功すればいいってでしょ。甘すぎるわね」
仕事の性質上失敗は許されない、わたしの前に並べる人的リソースは特異でなければ話にすらならない――なのに今の会社ときたら、わたしへのマーケティングを怠ったうえに無責任な採用を繰り返した。挙げ句、わたしの嫌う「失敗」を許容する環境ができた。というより、四年前わたしが来た時にはその環境にできあがっていた。わたしが無責任な採用を辞めろと言っても聴きやしないのだから、裏のセカイはいまだによく分からない。
「甘くておいしいお菓子は好きでしょ? ある程度楽できる甘さも好きでしょ?」
と訊いてくるマスコットにわたしは笑って「ええ、もちろん」と返す。
今のようなチームを組まなくてもわたしには銃と弾さえあれば一人でやっていけた、なのにどういうことかスナイパーのわたしは上司のドクにヘッドショット……ではなく、ヘッドハンティングされたのだ。給料もここの方が倍以上に良かったし、断る理由はなかった。
「楽をしているのはわたしたちのようにも思いますけどね。イェーガーが来てからはわたしたちの手は綺麗なものです」
「何を言うかと思えば、あなた以外は一人追い詰めるのに時間掛かり過ぎなのよ」
「経歴からしてイェーガーのレベルは段違いですわ、わたしでもお手上げです」
とクイーンは肩をすくめた、それを見たわたしはムスッとした顔をする。
むかしいた殺伐とした会社はわたしがいなくなるとすぐに潰れた。というのも、わたしが辞めたその日のうちに、元職場の社員をわたしが皆殺しにしてやったからだ。そのせいでわたしが罪に問われることはなかった――なぜなら、むかしいた会社の社員はわたしを除いて
わたしの元職場の連中は特異能力を使ってアルカナムの社員を闇討ちしていたらしい、だから削除されて当たり前。それにわたしも元職場の雑魚が気に食わなかった。
結果、アルカナムの和気あいあいとした雰囲気でわたしの存在は凄く目立っている。
この社内は合わないけど、仕事内容は変わらないからわたしにピッタリ。
「同期のおれはイェーガーに怒鳴られる毎日……」
「マゾヒストのビショップは嬉しいでしょ」とため息のようなビショップの独り言に返事をするマスコット。彼女はサディストな部分もあるのでわたしと息が合うのだ。
「そうね、ビショップは豚」
「イェーガー……それは豚に失礼です。ひょろいビショップはモヤシっ子です」
そうやってわたしたちにからかわれる真のマゾヒストビショップ。その彼はなぜか嬉しくなさそうに笑っていた。ブヒブヒブヒ? ブヒヒヒヒ? どうでもいいけど、ビショップはサンドバックに丁度いい。
ゴホン、と咳ばらいが聞こえたのでわたしは仕方なくドクの方を向く。
「それでは新人に登場してもらおう」
入ってきたまえ、そう続けたドクはドアを叩いた。
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