特異人

〝怪物を狩るには特異人よみとでなければならない〟


 わたしは特異人族メーレと呼ばれるヒト。簡単に言うとヒトであって普通のヒトではない存在だ。どのように普通ではないのか……と問われれば、「わたしの場合は目が普通のヒトより良いのよ」、と答えられればベストアンサーに選ばれないだろう。


 普通でないのは、人類の獲得できる能力範囲を超えているということ。その前置きをしてわたしが普通でない理由を説明するとだ、【可視化ヴィジュアリゼーション・スコープ】と呼ばれる誰が名付けたか分からない能力を宿して生まれたからだ。可視化――わたしにしか見えないグラフや表や弾道が見える、それから座標へのズームや男達が羨む「透視」ということも可能ではある。素晴らしい能力だが、デメリットのようなものもあって使うとお腹が減るし、使い過ぎると疲れるのだ。だから仕事以外で努力して使いたいものではない。


 デメリットは個体差だろうけど必ずある。そんな特異人は障害として認定されればいいものだが、残念なことに人的リソースとして現在は利用されている。


 それも他の特異人の犯罪意識上昇にある。意識高い系というよりも、個人の身体能力で上空百メートル跳んだような連中が自身の「ちから」を自慢するために大きな事件を起こすのだ。例えば――完全犯罪とか国の崩壊。そういう連中の数は多いとはいえないが、セカイ規模で考えれば特異人の中に危険な思想を抱く輩は少なくないらしい。


 危険で社会に有益な特異人、普通は目立ちそうな存在だろうが現れたのはいつの事やら状態。つまり、気がつけばそこにいたということになる。そんなわたしたちを学者は、人間からの進化やら突然変異なんて語るのだ。事実、わたしの体にはS染色体とF染色体というものがあるのだから間違っていないのかもしれない。


 S染色体のSは、スーパーなのか特異点シンギュラリティなのかシンなのか加虐性欲サディズムなのか。F染色体のFはファックなのかファッキンなのかファッカーなのか。それら二つの染色体が何のためにあるのかわたしには分からないけれど、どれも当てはまりそうな感じはする。


 というわけで、わたしが有益な特異人であっても事件は起こってからじゃないと動けない。だから必然的に誰か死ぬし、間接的に不幸になるわけだ。


 未来を予知できる特異人が現れない限り大きな事件は止められない。まあ、そんな特異人が現れたら百年後の技術やらを盗めるわけで、未来人に悲しい想いをさせてしまう。だから、倫理的に許されるものではないのだろう。けれど、今を生きる者たちは「金と幸福」を死語にはしたくないらしいから、未来人を殺すのだろう。いのちに関わる大きな事件を止めずに、多くの未来人を殺すことに夢中になるのだ。


 生まれつき目が良いわたしは人間の黒い部分を見過ぎていた。だから先ほどのような考えも浮かんでしまう。

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