わたしにピッタリな職業
数秒後に起こった一瞬の出来事をわたしはしっかりと瞳に焼き付けた。ピンクの物体や赤い液体が路面に飛散する光景と女が倒れる光景を、わたしは最後の最後まで記憶した。
「イエス ヘッド
わたしは無線のミュートを解除して、弾丸の当たった部分と標的の状態をオペレータに報告する。わたしはしっかり者なので一番重要な報酬の話も忘れずに伝えた。
<イエス、イェーガー。ネクストフリースタイル。アウト――>
いつものようにフラットに返してくるクイーン。仕事の時だけ真面目なクイーン様は失敗してしまえ、とわたしは少し苛立ちながら後片付けにはいった。
ヒトを殺した後の夜の風は一層腐った風になっている。気持ち悪くなる臭い、汚い色、聞けたものではない音、それらを肌で感じたわたしは、(失敗した時の風みたいで最悪の気分。手配書の奴でも見つけて狩るか)と本気で目を光らせようとするわたしだったが、やめておこう。
どっこいしょ。と一仕事終えて肩の荷を下ろすついでに、肩に荷を担いだわたしは思い出の場所を見ようとした。見ようとしたのだが、やはりお邪魔されるのがセカイの法則なのだろう。
「我々の矛は完璧ですね――イェーガーの【
この邪魔者め、こんなところで暇を持て余していないで仕事しろ。
「
「ええ、少々遅れてしまったようですが」
「はあ? 何に遅れたんだよ……」
「まあ、それは明日の会議で話します。それよりも――今日はお疲れ様ですイェーガー」
とドクからの労いの言葉と共に出張先のお土産がわたしに飛んでくる。
(わたしはこういう口調でも乙女である)そう発言したい気分になった原因は、彼の贈ってきた高カロリーのお菓子の袋を見たからだ。
「ミス・イェーガーならその栄養を一時間、いや三〇分で消費してしまうのでは……」
そうへらへらとしながら喋るドクをわたしはぶん殴ろうとした、しかし事実だったので握り拳を作るにとどめた。それにわたしが直々に殴る価値も引っ叩く価値もこの男にはない。
わたしが和歌を歌うように話をしていたら、この仕事を引退しているはずだ。
「まあ、サンクスと言っておくわ――わたしはへとへとでもないけどへとへとだから帰る。あんたの言う会議が明日あるみたいだし、さっさと寝ないと乙女の肌だけじゃなく髪も死ぬわ。ついでに言うけど、お前は張り合いないから死ね」
「死ぬくらいの長い休みが欲しいところではありますね」
「特殊な仕事だ、文句なんか言ってられない。死にたきゃ死ねばいい」
「イェーガーらしい厳しいお言葉ですね」
「そういうセカイに生まれたんだ、お前も
と、わたしの生まれたセカイは御伽噺の裏社会の汚い汚い、それはそれはもう便所川で服を洗う女ほどの汚さと、竹から疫病神を解き放つついでに己の細菌もばらまく男ほど汚いセカイ。
――そう、「わたし」というこころとカラダにピッタリ嵌るような職業は、ヒトだか怪物だかを殺す仕事しか残されていない。
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