投票結果

「彼に裏社会を教えるなんてわたしには無理だったみたい」


「そっか、逃がしたんだね。あの上位ランクだった狩猟家が狐狩りを放棄するなんて……この先どうやって生きてくつもり?」


「無職になって見えざる玉座にでも座るわ」


 そう返してあげるとマスコットは大笑いしてくれた。そこまで面白いことを言ったつもりじゃないのだけど、よく考えてみれば普通の特異人からしたらアホらしい返答だ。わたしは特異人の中でも普通じゃなかったから、マスコットのような共同体意識の枠に収まらないようだ。


「ごめんなさいね、笑わせるつもりは一切ない。わたしは本気で言っているの」


「そうなんだ。じゃあブレインを殺さないとね」


「……なるほど、ブレインを削除した報酬か」


「正解。イヴィル・ハンティング史上類を見ない最高の報酬。裏の政府シークレット・ガバメントは『ブレインを削除したら見えざる玉座を報酬とする』って世界に発信した。他のスポーツと違ってイヴィル・ハンティングに王者は許されない……そのはずだけど、キングが許されなかったスポーツにキングが誕生するんだよ。裏の政府が発信した今日だけで数千兆のお金が動いているって素晴らしいことだと思わない?」


 素晴らしいわね。ほんと、どうでもいいような素晴らしさだと思う。


 国を挙げての賭け事なんてばかばかしくてつまらない。どうせ自国のトップに賭けるのが目に見えているのだし、開発途上国はお零れに与ろうと他国のトップに賭けさせてもらう。そういうわけで、現時点で完成体連中か三強の銘柄トリニティ・ブランドに賭け金が集中していて下らないパーティーを開いていることだろう。


 と丁度いいところで、公共スクリーンに参加者リストの投票結果が表示された。


 普段の派手さに加えて一番目立つように表示されていたのは、わたしのよく知っている女。


「完成体でもないクイーンが投票一位獲得か……あの女が個人で参加するとこ初めて見た」


「投票結果は必然だよ。スペシャルの中でもさらにスペシャルな能力を有していない限り、クイーンの前じゃ完成体でも抵抗できない。世界的に見てもクイーンと真っ向勝負ができるのはクライテリオンしかいないからね」


 ハンデなしでクイーンと戦えるのはクライテリオンだけ、そのクライテリオンは参加者ではなく傍観者……今日のイヴィル・ハンティングは偶然か必然か。


 と、わたしは秘密権力本部での会話を思いだす。


(若き乙女は異端者を削除するために動いていた。増え続ける異端者を殺す毎日、その繰り返される日々に刺激を求めて、若き乙女はいつからか他人の不幸を蜜として啜るようになった。女王と王……文法的には女王を殺せば王とふたりきりになれるけど、若き乙女は王との心中を願っている)


 今になってあの老人たちの言葉を理解するとは……齢二十四にしてわたしも老人の仲間入りしてしまったようだ。元から古臭さはあったけど改めてそう感じる。

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裏社会へようこそ、もちろん競技はヒト狩りです―旧劇 笑満史 @emishi222

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