デビュー戦終了
結末は知っていた――少女は天国にいってしまうのだ。小さな「いのち」を救ってやれない燐寸は、暖かい思い出を甦らせることしかできなかった。それでも、マッチの小さな火は大人たちよりも暖かくて、優しくて、短い時間でも少女のこころは救われたのだ。
――わたしは哀しかった。
……結末を話し終わったブレインは、
「<こころ>まで冷え切った大人たちは小さい火をかき消すことしかしできなかった。大人たちの集団意識は『将来のいのち』を殺すことしかできなかった」
そんなことを言っても、大人たちは何もできない。少女の運命はどうしようもなかった。
「いまのぼくは標的を見逃すことができる。物語では少女を救ってやれる」
ブレインはどうして運命に抗おうとするのか、わたしには理解できない。
「大人たちが少女を家に招いたところで誘拐犯扱いされる。制御された大人たちと同様に、あなたに出来ることなんてたかが知れている。もし少女が『わたしを助けて』なんて言葉を口にしたとして、リソース意識に囚われている人類はゴミのような解しか選択できないのよ」
わたしは冷たく、そして鋭く言い放った。けれど彼はその冷たさも鋭さもものともせず、
「死ぬことでしか救われない物語なんて否定した方がいい。ぼくたちがまだヒトであるなら、新しい解を選択できるはずです」
ごめんなさいイェーガー……ぼくには撃てない。そう選択するブレインは、わたしに穢れのない笑顔を向けていた。
甘い匂いだ。ブレインから漂ってきた匂いは、わたしの好きな甘い匂い。それに加えて、カラダが蕩けてしまいそうな心地よい響き。
まるで、わたしの記憶が彼に支配されていくようだった。
<わたしの裡に保管してある少女の記憶>。求めるものが何億光年先にあったとしても、わたしはそれだけのために宇宙を旅してもいい――そう感じさせる記憶。
最低の記憶と最高の記憶、乙女のわたしはその狭間で迷っていた。
特異人の中でも良いとも悪いとも評価できない特異な奴。そう思ったわたしは――
「その解で本当にいいの?」
「〝たった一つの冴えたやりかた〟これがぼくの意識です」
「……その意識ではこの先を生きていけないのよ」
「それは主観の問題です。運命の選択肢は分岐している――ぼくの選択が間違っていても、それは間違いない」
――わたしは諦めて、ブレインに貸していた銃を懐に仕舞った。
「ブレイン、あなたのデビュー戦は終了。表からも裏からも仲間外れだよ」と言い残して、わたしは標的とブレインに背を向けた。(……それと、わたしも仲間外れ)
あなたがこの先も変わらないでいるなら、
〝一緒に落ちるところまで落ちましょう〟
今までの功績が水の泡になると知っていても、この時のわたしは気分が良かった。
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