天国と地獄
人間の頭の中には地獄がある。同じように天国も人間の頭の中にあるらしい。要は考え方ひとつで天国にも地獄にもなる。「自分は地獄に立っているのか、それとも天国に立っているのか?」それを判断するのは自分の意識になるのだそうだ。
「悪人は地獄へ行く、善人は天国へ行く」それを聴いて解ったことといえば――このセカイの人間には天国も地獄も相応しくないということ。
<悪人は言う「罪のない人間を殺そう」、善人は言う「罪のある人間を殺そう」>そんな共同体意識の旗を掲げたところで人間は罪から逃れられない。それに善や悪の意識は魂よりも保存が難しい、というより保存するなんて考えは現実的ではないし時間の無駄だしお金の無駄だ。つまり、善と悪のこころを持つ実体はない。
「ケモノのカラダとケダモノのこころ。すばらしい無意識、すばらしい悪意」……それを持つのが実体としてある人間だとブレインは言っていた――(ん? 変だな)、確かにブレインは言っていたはず、なのにその言葉が過去なのか未来なのかわたしは分からなくなっていた。
さあ、ここで問題、
QⅠ 事象Xがもたらすわたしの悩み。
QⅡ 過去は未来……未来は過去……。
QⅢ 完成体による、完成体のための、完成されたセカイ。
なんて三つ作ったのはいいが、案の定わたしはまたしても分からなくなった。だが、暇だから解いておこう。
<AⅠ:Xは<真に存在するもの>であって不可視のセカイでは生きていない=実体はある>
<AⅡ:最先端の情報を扱うのは遅れている。だから、未来の情報を扱うことで現在の解に辿り着ける>
<AⅢ:天国も地獄も、善も悪も、すべての意識を消せばセカイのできあがり>
とわたしはⅠからⅢまでの問題を解くのだ。問題が低レベルなことと、回答がある意味ハイセンスなのは言うまでもない。
という感じで、過去も未来も語れない現在のわたしといえば――デスクに突っ伏して、実体の見えないXを撃ちぬくイメージトレーニングをしている。加えて、実体のあるブレインを王女に仕える騎士としてこき使っていた。
そう、暇こそがわたしのビジネス。
そこで、「イェーガー」とわたしを呼ぶ男の声がした。
…………声を無視して人差し指と中指を立てて勝利のVサインを作る。そのVサインを見て脳内に浮かぶ光景は――ビロードの生地が似合わない革命、それと<敗残者の姿>……だったに違いない。
(獲物は恐怖なのか怪物なのか。はたまた創造主なのかヒトなのか)
そんな下らない行動と考えをしているわたしに、
「Xについて、
「よろしい。早速そのデータを表示しなさい――最弱の王よ」
わたしはからかったのだけど、ブレインは寛容な笑みで作業を進める。
ブレインという男はわたしを暇にしない奴だと最近知った。わたしがせっかく不機嫌にさせようとしてもいつもこんな感じの反応、ヒトとしての意識があるのか疑うレベルだ。だからなのか見ていて飽きない。
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